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2026.08.18
文=茂木俊輔
農業は、全くの素人。JAの存在も知らなければ、アスパラガスの産地であることも知らなかった。義父の事業を継ぐまでは子育てに専念。「いつかは起業を」という思いを温めながらも、雌伏の時を過ごしてきた。

それが今や、瑞雲ファームを代表する女性農業者。義父の遺志を継ぐというストーリー性は目を引き、農村社会での存在感は大きい。メディアへの登場は数知れず。知名度の高さが、顧客を全国から呼び寄せる。
主要な販路は、瑞雲ファームの公式サイトを通じたオンライン販売。今一番の売れ筋は、「夏採りアスパラガス」だ。値段は、1kg3300円。決して安くはない。それでも売り切るところに、高いブランド力が表れる。
中井氏自身、その強さを実感する。
生産・販売品目は、アスパラガス、シイタケ、ブルーベリーなど。最近生産に取り組むブルーベリーは、今年初めて公式サイト上で予約販売を始めた。100g×4パックで3000円。初登場にもかかわらず、売れ行きは上位にランクインする。
「ご予約いただいた飲食店は、瑞雲ファームのブルーベリーはまだ口にしていないはず。それでも、品質面では安心感をお持ちのようです。アスパラガスやシイタケで築き上げてきたブランド力のおかげと感じます」
この10年間、ブランドの構築に努めながら、事業を成長軌道に乗せてきた。今ではサラリーマンから転じた夫も加わり、農業一本で生計を立てる。
幸いだったのは、女性農業者への転身を、夫も義母も受け入れたことだ。「地域の中には『農業経験のない女性には無理』という声があったようです。しかし夫や義母は、NOとは言わなかった。一度言い出したら決して引き下がらない私の性分をよく分かっていたからかもしれません」。中井氏は振り返る。
だが、一歩を踏み出そうにもまず何から手を付ければいいか、皆目分からない。頼ったのが、JAいがふるさとの中川氏である。夫の実家に線香を手向けに来た時に初めて顔を合わせ、アスパラガスの営農指導担当と知る。「それからは、毎日電話です。1日のうちに何度もかけた日さえあります」(中井氏)
電話相談を中川氏は真正面から受け止めた。従来の新規就農希望者とは異なる価値観。その異色さに興味を抱いた。「農作業そのものには魅力を感じないという。おしゃれでまつ毛がぴんと跳ね上がる。『農業界にギャルが来た!』と衝撃を受けました」
修業の日々を重ねる中、中井氏は農業者として初の洗礼を受ける。夏採りアスパラガスの初収穫の時期。アザミウマという虫の防除が遅れ、出荷分を全て廃棄処分に回さざるを得ない事態が1カ月ほど続いたのである。
救いの手を差し伸べたのは、中川氏だ。
アザミウマは体長1~2㎜。肉眼では捉えにくい。「収穫時期を迎えたはいいが、方法が分からない。『しんちゃん』に圃場まで来てもらったところ、この虫の大量発生が明らかになったのです」。中井氏は経緯を明かす。
「しんちゃん」とは、中川氏の愛称。名前の「真一」に由来する。中井氏はいつのころからか、親しみを込めてこう呼んできた。
対策の基本は、早めの防除。それで虫の大量発生を防ぐ。ただこの時は、大量発生後のため、中川氏の助言を受け3日に1度の連続防除。それで被害を食い止めた。「以降、収穫時にチェックし、見つけたらすぐ防除しています」(中井氏)
生産は手取り足取り教えてもらうが、販売は地元JAへの出荷に加え販路を多角化している。それは、販売価格を自ら決め、できるだけ高値で取引する余地を残したいから。背景には、資材高騰もある。アスパラガスの生産に用いるビニールハウスを整備するにしても、投資額は5年前の倍以上。「営農を続けるには、高値での取引は欠かせません」と中井氏は訴える。
地元JAを通して出荷すると、商品はあくまでJAいがふるさと産。瑞雲ファーム産にはならない。自身のブランド確立を志す中井氏にとっては、瑞雲ファーム産としても出荷したい。それには、独自の販路が必要だった。
ブランド確立にもつながる販路として中井氏がまず開拓したのは、スーパーである。「狙いは、店頭に地場産品を並べるスーパーです。運営会社に電話で連絡を取り、間をつなぐ地元の卸売会社を紹介してもらいました」と中井氏。見込んだ相手には積極攻勢をかけたという。