異例のスピードでブランド化した「いもジェンヌ」

JA新潟みらいが、商・工・官・学と連携して販売1億円超に

2つの組織でブランド化を推進

 こうした生産者とJA新潟みらい側の動きは、周囲の関係者を巻き込みながら2つの組織を立ち上げることによってさらにダイナミックで具体的なものになっていった。1つは、何をどう作るかを検討する「新規品目検討プロジェクトチーム」であり、もう1つは、加工品の開発やブランディングを含めてどのように売るかを考える「新潟西地域農商工連携協議会」(現在は「いもジェンヌ農商工連携協議会」)という組織だ。

 まず平成20年(2008年)に、JA新潟みらい、新潟市西区、農業委員会、新潟農業普及指導センターとで「新規品目検討プロジェクトチーム」を立ち上げた。プロジェクトチームでは、生産者への意向調査や市場調査、生産面での導入実証試験、先進地域の調査などを進めながら、紅はるか導入を決定する中核組織として機能した。

 もう1つの「新潟西地域農商工連携協議会」は平成22年(2010年)に生産者、JA新潟みらい、商工会、菓子業者などの構成メンバーで発足。この協議会で、紅はるかで作ったペーストを使ったスイーツ製造についての検討と商品化がスタートした。さらに新潟大学とも連携を取りながら、加工商品の開発とブランド化を具体的に進めていった。

 農産物は規格品として販売できるもののほかに規格外品が大量に出てしまう。もちろん生産者は技術を上げることによってできるだけ規格内に収まるように努力する。いわゆる歩留まりの向上だ。しかし、農産物が植物である以上、どうしてもある比率で規格外品は発生する。この規格外品を加工品に活用できるかどうかは、収益性に直結する大きな問題なのだ。しかも加工した商品に人気が出れば、消費者にブランドの名前が浸透していく。規格品のいもの販売にも波及し、互いに相乗効果を及ぼすことが期待できる。

菓子舗「田文」、洋菓子「セゾン」を営むシェフ・パティシエで、にいがたの名工にもなっている田村昇さん(写真:佐藤久)

 そういう意味で、地場の菓子業界が加わったことは大きかった。協議会に最初から参加した菓子舗「田文」、洋菓子「セゾン」の両店を営む田村昇さんは、このときの経緯を次のように語ってくれた。「私は農家の出身です。新潟県の経済が成り立つには絶対に農家の収入が減ってはいけないと考えていました。この話を聞いて何とかしたいと思い、紅はるかのペーストを試食したところそれまで使っていたものと全く異なる味ですばらしいと思ったのです」

 田村さんが語る新潟と新潟の農業への想いは、「いもジェンヌ」のブランド化に携わった農・商・工・官・学すべてのメンバーの間に共通するものだ。JA新潟みらいの古俣さんも「何をすればいいか手探りでしたが、市や県を含めて皆さんが同じ考えを持って取り組んできた結果が今につながっていると思います。お菓子業界の方とはそれまでまったくつながりがなかったんですが、ふれあうといい人ばかり。新潟の人情があって、みなさんが協力してくださったというのが大きいと思います」と、メンバーの“新潟愛”こそが早期のブランド化の一番の要因だと分析する。

出荷額は今年度1億突破の見込み

 連携協議会では平成23年(2011年)には「いもジェンヌ」というブランド名が決まり、同年秋に販売が始まった。初年度は、作付け面積1ヘクタール、販売金額はいもだけで約400万円、加工品まで含めると約770万円ほどと順調なスタートを切り、その後もJA新潟みらいや生産者が中心となってブランドを定着させるための活動が続いている。スーパーの店頭での焼きいもの試食イベントと生いも、スイーツなどの販売、いもジェンヌレシピ集やスイーツガイドの発行などに加えて「いもジェンヌ」まつりの開催などがある。

 こうした活動を引っ張ったのがJA新潟みらいだった。一般にJAの中では、作物別に生産者から構成される生産部会があり、販売額の大きな作物に対してはJAとしても積極的に動きやすい。しかし、この「いもジェンヌ」の場合は当初、作付面積も少なければ販売額もゼロという状態からスタートしている。JA新潟みらいの担当者は、他の作物や業務を持ちながら、「いもジェンヌ」の拡販に取り組む必要があったのだ。

 古俣さんは当時を振り返る。「『農協がここまでやるの?』というところまで取組みました。一般に加工品など6次産業化の部分で、JAが菓子業界や大学と連携するような試みは少ないと思います。農協は利益目的のためにあるのではなく相互扶助の関係で運営されているものですから。しかも、私たちにとってもさつまいもの仕事は自分の仕事以外のプラスアルファでした。しかし、それも生産者にとって少しでも収益になれば、農家が喜んで地域が喜んでくださればという思いで取り組みました」

 「いもジェンヌ」成功の裏には、将来の可能性を信じて動いたJA新潟みらいの汗があると言ってもいいだろう。

 小竹さんたち生産者もその思いに応えた。生産者も自ら販促に出向くようになる。

 「それまでは作物を持って自らスーパーに売りに行くなんて考えもしませんでした。しかし自分たちで売ると改善点や課題がわかってくる。そうすると定期的に売り場を見に行ってみるかということにもなりました」

 最初は作業性だけを考えて袋詰めをしていたが、消費者目線で改善することもあったという。

 熱心な活動の甲斐あって、いもジェンヌの作付け面積は毎年コンスタントに伸びている。年間の販売額も平成28年度(2016年度)は約9800万円となった。今年、平成29年度(2017年度)は念願の1億円を突破することは間違いなさそうだ。スイーツや焼酎などの加工品の売上げまで含めれば、地域における経済効果はさらに大きなものになる。

年度 平成25年度 平成26年度 平成27年度 平成28年度
生産戸数 17戸 19戸 20戸 21戸
栽培面積 9.5ヘクタール 13.8ヘクタール 16.8ヘクタール 20.6ヘクタール
出荷量 191トン 210トン 310トン 366トン
出荷額 4425万円 5997万円 8500万円 9800万円
「いもジェンヌ」の作付面積と販売額は着実に伸びている。販売額は今年度(平成29年度)1億円を超えることになりそうだ(データ提供:JA新潟みらい)