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提案を受けた当時は、これだけの課題を乗り越える技術がなかった。JA西都では検討を一度断念した経緯がある。
転機は、新しい無線通信方式として「LPWA(Low Power Wide Area)」が国内でも利用されるようになったことだ。LPWAは、通信速度が遅く、送受信できるデータ量が小さいものの、「省電力」「広域・長距離」「低コスト」を持ち味とする無線通信方式だ。IoT社会では、センサーで計測した数値データなどシンプルで小さいサイズのデータを送受信する機会が多いことから、その実現に欠かせない通信方式とも言われる。
「この通信方式を利用すれば、何よりまずコストの課題は乗り越えられそうでした」と関谷氏。再び重油タンクのメーカー経由でIoTソリューションを提供する企業としてワイエスシー(横浜市)を新たに紹介してもらう。
このワイエスシーが同じくIoTソリューションを提供するYE DIGITAL(北九州市)と協業し開発したのが、JA西都が現在利用する残量監視システムである。
ポイントは、重油の残量を計測する圧力センサー、センサーを稼働させるリチウム1次電池、計測データをクラウド上にアップロードするLPWAの通信機能など、必要な機能を全て、「みるタンク」と呼ばれる手のひらサイズの防水樹脂製ボックスに納めた点だ。コスト、断線リスク、電源といった全ての課題を、こうした造りによって乗り越えられた。
ただ当初は残量を5分に1回の頻度で計測しデータをアップロードする想定だったが、それでは電池の消耗が早いため、計測頻度を1日1回に見直した。関谷氏は「使用量が最も多い作物でも、重油をたった一晩で大量に消費することは考えられません。1日1回の計測でも十分だと判断しました」と、見直しの理由を明かす。
JA西都ではこの残量監視システムを管内約1500基の重油タンクに無償で搭載。配送・給油業務の担当者がクラウド上の計測データを業務の効率化・計画化に活用できる仕組みを整えた。運用開始は2019年11月である。
クラウド上からダウンロードした計測データ、すなわち重油の残量データは担当者が表計算ソフト上に落とし込み、残量の少ない順に並べ替えたり、配送車両ごとに割り振ったりするなど、効率的な配送・給油計画を練るのに用いる。
並行して配送・給油業務の内製化も進める。「2016年当時は2社だった外部委託業者を1社に絞り込み、内製化率を約10%から約60%にまで引き上げました」と関谷氏。内製化はまだ途上の段階で、最終的には100%を目指すという。
配送用タンクローリー車を現在の6台から4台にまで減らす目標も掲げる。「残量監視システムで各タンクの重油残量を毎朝把握し、最適な配送・給油ルートを構築できれば、配送能力を3分の2に落としても対応可能という見通しです」(関谷氏)
運用開始から2年余り。当初から見込んでいたコスト削減効果は着実に表れ始めているという。関谷氏は「配送・給油業務の効率化・計画化で残業が減り、1人当たりの人件費を抑えられるようになりました。また内製化によって、変動経費である配送コストも削減できるようになりました。変動経費の圧縮を最終利益の確保につなげていきたいですね」と、収益貢献に大きな期待を寄せる。
コスト削減分は「利用高配当」として生産者にも還元される。利用高配当は、各期末の剰余金をJA組合員に対して組合事業の利用高に応じて年1回配当として還元するもの。生産者が重油を買い取る購買事業も、その対象になる組合事業の一つである。
生産者にはもう一つのメリットも見込める。重油買取価格の引き下げだ。関谷氏はこう解説する。「重油は仕入れ価格の動向をみながら調達しています。それが上がる傾向の時は配送を急ぎ買取価格をできるだけ抑え、下がる傾向の時は配送を遅らせ買取価格の下げを待ちます。そうした配送管理に残量監視システムは役立ちます」。

メリットは経済面に限らない。JA西都にとっては配送・給油業務の内製化を進めていくうえでも役に立つ。「重油タンクに搭載する残量監視システムから緯度・経度情報も取得できるため、地図アプリ『グーグルマップ』上でタンクの位置を特定できます。土地勘のない新人担当者でも、車両に搭載したタブレット端末を確認しながらルートを巡回すれば、配送・給油業務をこなせます」(関谷氏)
当面の目標であるコスト削減の先に、関谷氏はハウスの集約化を見据える。条件の良い場所にハウスを集約化し、生産効率を高める狙いだ。それには、各ハウスの位置、面積、老朽度など、現状の把握がまず欠かせないという。
「現状を把握できれば、クラウド上でのハウス台帳の整備が可能になります。台帳整備を通じて、ハウス集約化を加速させていきたいですね」。関谷氏は、産地の事業構造を大きく変えるその第一歩に、デジタル化をつなげていく考えだ。
