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2023.03.27
文=高田慎治
JA全中(全国農業協同組合中央会)などが行った調査によると、2020年度のJAファーマーズマーケットの売上高でJA糸島の「伊都菜彩」が1位になった。販売高は39億6000万円と群を抜く。しかし、この数字はコロナ禍の影響を受けたものだ。2017年度のピーク時は販売高42億円、来店客数137万人を記録している。「伊都菜彩」の商圏は、糸島市、福岡市を中心とするエリア。糸島市外からの来店客が7割以上を占めるそうだ。

「『伊都菜彩』の設立にあたり、福岡市から車で30分以内の大きな道路沿いという立地条件で場所を探しました。100万人都市である福岡市の生活圏にあるメリットを生かし、『地産地消』および『国消国産』の拠点としての役割を担うとともに、直売所の安定した経営を図るためです」とJA糸島 営農部 直販課 課長の髙橋悟志氏は話す。
福岡市内にもスーパーマーケットはたくさんあるのに、移動30分をかけても訪れたくなる「伊都菜彩」。消費者の購買意欲を高めるために、JA糸島は農畜産物にどのような価値をプラスしているのだろうか。
JA糸島は、1962年に糸島郡3町の14農協と2連合会の合併により設立。当時から一貫して生産農協を標榜し、地域農業の振興、地域社会経済の活性化、組合員、地域住民の豊かな暮らしの実現に取り組んできた。糸島地域の農業は対馬暖流の影響による温暖な気象条件から、野菜、果樹、花卉などの園芸作物の栽培に適し、年間を通じて多種多様な農畜産物が生産される。
「伊都菜彩」の店舗の顏ともいえる、屋根下のスペースでひときわ目立つのが「まるいとマーク」だ。設立当時から60年以上引き継がれる「まるいとマーク」には、糸島産への誇りと情熱が込められている。店内に入ると、イチゴ、キュウリ、ニンジン、ホウレンソウ、ブロッコリー、トマトなど様々な野菜が並ぶ。菊、バラ、洋ランなど花卉の種類も豊富だ。「名産品の販売ではなく、JA糸島産直市場として組合員が心を込めて生産した農畜産物の委託販売を行っています。農畜産物の97%が糸島産です」と高橋氏は強調する。
JA糸島の正組合員なら、生産部会に所属していなくても農畜産物を出荷できる。部門ごとに棚割りされており、棚をさらに仕切りで分割したスペースに各自が商品を置く。棚に陳列しきれない場合は、棚下のコンテナやバックヤードに保管。商品の補充はJA糸島のスタッフが行うが、生産者によっては早朝5時30分の出荷時間に来て、開始と同時に売り場コーナーの好きな場所を確保するという。組合員に不公平感を極力与えないよう、一定のルールのもとで運営されている。
現在、出荷者は約1500名。生産者が自分の名前で販売できるメリットは大きい。「ファンがいる生産者も多いですよ」と高橋氏は笑顔になる。「9時の開店前に店舗入口に行列ができます。○○さんのほうれん草、〇○さんのトマト、といったお気に入りの生産者の野菜を購入するためです。生産者自身が野菜の調理方法に関する手書きのメモやポップを配置するなど、みなさん熱心ですね。自分の野菜に自信をもっているから、おいしく食べてもらいたい気持ちが強いのだと思います」。直売所では同じ生産者の商品が昨日と同じ場所にあるとは限らない。来店客は自然と、目当ての生産者の名前を探すようになる。価格よりも品質に魅力を感じる仕掛けが出来上がっているのが、スーパーマーケットと大きく異なる点だ。
価格は食品購入の重要な判断基準だ。生産者自身で値付けする価格は、市場価格よりも安いのだろうか。「極端に安くはないです。近隣のスーパーマーケットなどを見て、自分の商品にどのくらいの価格をつけるべきか分かります。希少性の高いものであれば、ある程度値段を高くする。価格は、お客様からの評価を表すものでもあります。安いから購入するのではなく、この値段でこの鮮度なら、とご満足いただいて買われているのだと思います。例えば小さくて曲がったキュウリなどは、味は変わらないのに市場には出回りません。そういった商品は値ごろ感があります」(高橋氏)。
「伊都菜彩」に出荷する組合員は、あくまで生産者。全員がマーケティング能力に長けているわけではない。そこでJA糸島が生産者の販促支援を行っている。「日々の商品の売れ行きや青果卸売情報をもとに、商品ごとの目安となる値段表などをバックヤードに貼り出しています。また年1回懇談会を開催し、出荷時期や必要品の要望などをヒアリングしています」。


リピーターづくりでは、来店者に対するサービスも大切だ。「野菜ソムリエの資格を持つJA糸島の職員が、旬の糸島産野菜を使ったレシピを作ったり、店内でお客様のご相談に応じたりして、サービス向上を図っています。コロナ禍前は料理教室、農業体験、旬の野菜を使った料理の試食、ジャムづくり体験など、集客のために様々なイベントを開催していました。今後は徐々に再開していきたいと思います」(高橋氏)
収益を上げるために、何をどう栽培するべきか。JA糸島の営農指導部門や資材センターに相談する出荷者も多いと高橋氏は話す。「出荷者は新しい品種や珍しい野菜に関して、長期間の出荷は可能か、早く・遅く出荷できるか、といった出荷時期や栽培方法などの情報提供や指導を受けています」。
「伊都菜彩」は、新規就農者が販売する最初のステップにもなると高橋氏は指摘する。「営農指導を受けた新規就農者が、最初に出荷する場として『伊都菜彩』は最適です。お客様の反応を見ながら、栽培する作物の選定や、技術に磨きをかけるとともに、所得も確保できます。自信と技術を身につけた段階で生産部会に加入し、市場流通に向けた次のステップに移ることが可能です」。
