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2023.08.21
文=茂木俊輔
薬用作物と言っても、見た目はごく普通の植物だ。特別な設備は必要とせず、圃場では秋の収穫を前に緑の葉を茂らせる。強烈な臭いを発するわけでもないから、それと教えてくれる人がいなければ、薬用作物ということは全く分からない。
JA道央の管内で栽培するのは2種類。1つは、附子。毒性を持つ一方で、強心、鎮痛、利尿作用を持つ。もう1つは、当帰。補血、強壮、鎮静、鎮痛といった薬効が認められる。効用はいずれも、根の部分にある。
収穫後は、薬用作物の栽培や生薬の製造・販売・保管・技術開発を目的に設立された夕張ツムラが根の部分を買い取り、生薬への加工や乾燥・選別にあたる。加工場集荷時、色や形などに関する選果基準はなく、腐敗していない限りは全量を受け入れるという。
同社生薬栽培部業務課課長の山内優佑氏は、その背景を解説する。「生薬としての品質が担保されていれば問題はありません。そこは、まず収穫時期で決まります。生産者には、当社で定める収穫時期を徹底するように伝えています」。

夕張ツムラが拠点を置く夕張市は、北海道における生薬の集積地という位置付けだ。道内各地で生産された生薬はそこにいったん集められ、苫小牧港を経て、茨城県石岡市にあるツムラの石岡センターに出荷される。そこで選別・加工された生薬は、茨城県や静岡県にある工場に送り出されるという。
JA道央が薬用作物の栽培を始めたきっかけは、夕張ツムラの親会社にあたるツムラからの協業の申し入れである。

最初に契約栽培を想定していたのは附子だ。栽培実績がまだない中、道内数カ所に候補地を定め、各地に試験栽培を持ち掛けた。附子の弱点は、暑さに弱いこと。東北以南では栽培実績がない。ならば、北海道に可能性があるのでは――。
JA道央では2003年10月に申し入れを受け、附子の試験栽培に踏み出した。「その結果、安定した収量を見込めることが分かり、本格栽培を決めたと聞いています」。JA道央千歳営農センター青果園芸課青果園芸係係長の草野正揮氏は語る。

輪作体系の構築上プラスに働く、という理由もあった。「当時、ブロッコリーやキャベツなど連作障害を起こしやすいアブラナ科の作物が増えていました。連作障害の阻止に向け、従来にない輪作体系を構築するには薬用作物を新たに取り入れるのが良い、と判断したのです」。JA道央千歳営農センター青果園芸課課長の岩名光二郎氏は説明する。
ツムラグループとの協業はこうして始まった。試験栽培の翌年には薬草生産部会の前身にあたる千歳市薬草研究会を立ち上げ、本格栽培への第一歩を踏み出す。2006年度には、同グループが千歳市内に調製施設を整備し、収穫後の附子や当帰を生薬に加工・選別する体制を整えた。2014年度には、今度はJA道央がその隣地に附子専用の集出荷貯蔵施設を整備し、契約栽培を管内全域に広げる構えを打ち出した。いま、ツムラグループはこの一帯を「附子調達の重要拠点」(山内氏)と位置付ける。

契約栽培にあたるのは、JA道央薬草生産部会に所属する16戸。作付面積は合計45haに上る。生産規模は、試験栽培時には1戸・10aにすぎなかったが、この20年で徐々に拡大してきた。栽培地域は千歳市にとどまらず、隣接する恵庭市やさらに北に位置する江別市にまで広がる。

とはいえ、決して順風満帆ではなかった。附子にしても当帰にしても栽培の歴史は浅く、生産者には経験がない。栽培開始当初は、苦労を強いられたという。
栽培して初めて分かることも多い。JA道央薬草生産部会部会長の今忍氏が指摘する。「附子の収穫後にてん菜を植え付けたところ、全滅してしまいました。土壌病原菌が共通のために起こる連作障害です」。連作障害とは、同じ場所で同じ作物または同じ科の野菜を栽培していると、病原菌や有害虫が増えたり、土の養分が不足したりし、生育不良や枯れてしまうことをいう。