漢方薬の原料となる生薬産地を訪ねる!

薬用作物の産地づくり、JA道央

雑草まみれで栽培をもう続けられない!

 栽培ノウハウはツムラグループがJAとともに道内各地で生産者の声を拾い、関連データとともに北海道共通の基本マニュアルとしてまとめてきた。「ただ道内でも環境や条件は地域によって異なるので、それを基に営農指導するにも一律にはいきません。数年間は試行錯誤を積み重ね、その中から地域ごとのノウハウを見出していくしかありませんでした」(山内氏)。

JA道央 薬草生産部会 副部会長 平井久 氏
JA道央 薬草生産部会 副部会長 平井久 氏

 最大の問題は、農薬を使えないことだ。2003年以降、農薬は登録された適用作物以外に使用できない決まりになっている。栽培開始当初、附子や当帰を適用作物とする農薬は少なく、除草や殺虫・殺菌には手を焼いた。

 「雑草で覆われてしまい、もうこれ以上栽培を続けられない、と諦めかけたこともありました」。そう振り返るのは、JA道央薬草生産部会副部会長の平井久氏だ。同氏が栽培する当帰は、春植えのものは夏になって急速に成長する。そのため、植え付け後はしばらく、圃場に雑草の生える余地がふんだんにある。そうした事情も重なり、伸び放題の雑草で肝心の当帰が埋め尽くされてしまった、というのである。

当帰の圃場。苦難もあったが、現在は軌道に乗っている
当帰の圃場。苦難もあったが、現在は軌道に乗っている

 苦労を乗り越えつつ生産者と作付面積を現在に至るまで増やしてこられたのは、JA道央がツムラ側と様々な協議・交渉を重ね、生産者のモチベーションを落とさないよう工夫したからだ。

 その象徴は、収穫物の買い取り額に表れる。附子については単位面積当たりの最低保証を定めたのである。「ツムラ側の要請を受け、作付面積を増やそうにも、附子に使用可能な農薬が限られるので、生産者にはリスクがつきまといます。そこで、買い取り額に最低保証を定めてもらうことを当時の担当者が交渉しました」(岩名氏)。生産者からは実際、最低保証があるからこそ作付面積を安心して広げられる、との声が聞かれる。

 どのような考え方で最低保証の水準を設定したのか――。「附子の再生産を可能にする水準という考え方に立っています。最低限、附子の栽培にかかった経費分だけはツムラ側で保証しようではないか、という発想です」(山内氏)。

 もともと薬用作物の収益性は高い。附子を栽培する今氏は「植え付け時期の9~10月は他の作物の収穫作業と被り忙しいですが、その時期さえ乗り切ってしまえば手間はそう掛からなくなります。一方、最低保証もあって附子は安定収入を確保できます。作物としての魅力は大きいですね」と、本音を漏らす。

 JA道央ではさらに、附子や当帰に使用可能な農薬が今後増えていくように、必要な取り組みをツムラ側に求めている。

JAのおかげで最悪の事態は回避できる

 附子や当帰を農薬の適用作物として新たに登録するには、薬効薬害試験や作物残留試験などを実施し、検証結果を明らかにする必要がある。ツムラ側ではそれらの試験を実施するほか、早期の登録実現に向けて行政・公的機関や農薬メーカーとの連携を強化してきた。農薬の中でとりわけ力を入れてきた除草剤については、てん菜用の製品が附子や当帰にも使用できるようになるなど、一定の成果を上げている。

 協議・交渉の窓口になるJA道央の役割を、ツムラ側は次のように述べている。「生産者からの情報を共有することで、状況や課題を一元的に把握できます。その結果、問題が生じていても手遅れにならないうちに対応策を提案できます。当社としては、附子や当帰の収量がいきなり減って必要な量の生薬を確保できなくなる、という最悪の事態は避けたい。それは、JA道央のおかげで何とか回避できています」(山内氏)。

JA道央 薬草生産部会 監事 佐々木竜二 氏
JA道央 薬草生産部会 監事 佐々木竜二 氏

 漢方製剤の市場拡大見通しを背景に、夕張ツムラでは今後、薬用作物の作付面積をさらに増やしていく方針だ。

 生産者の思いも、作付面積の拡大に傾く。JA道央薬草生産部会監事の佐々木竜二氏は「作付面積は附子で3ha。他の作物の作業との兼ね合いもあって秋は忙しい期間が長いものの、うまく折り合いをつけ、2haほど増やしたいですね」と前向きだ。

 附子も当帰も根の部分を生薬に加工するため、栽培に適している土壌とそうでない土壌がある。面積をやみくもに増やせるわけではない。「土壌が粘土質で水はけが悪いと栽培には不向きです」と山内氏。ただ土壌の成分が厳密に決まっているわけではないため、生産者に意欲さえあれば、新たに取り組んでもらうことは可能という。

 作付面積を増やしたいという思いはJA道央も同じ。今後は管内での広域化を進めることで、その拡大を後押ししていく。「恵庭、江別、北広島といった周辺地域で、附子や当帰の栽培を推進していきます。栽培意欲のある生産者はまだいます。その意欲を面積拡大につなげていきたいですね」。岩名氏は、生産者が喜ぶ将来を見据える。

掘り起こした附子の様子。取材は7月に実施したが、約2か月後の収穫期を待たずにかなり大きいという。今年はかなりの収量を期待できる、と生産者の声も弾んでいた
掘り起こした附子の様子。取材は7月に実施したが、約2か月後の収穫期を待たずにかなり大きいという。今年はかなりの収量を期待できる、と生産者の声も弾んでいた

 目下の課題は、附子の立ち枯れへの対応だ。立ち枯れに見舞われると、その株全体が使いものにならなくなるため、期待した収量を確保できない恐れが見込まれる。「原因と考えられる菌を殺す農薬について、ツムラ側で試験を実施していますが、まだ使える段階には至っていません」と岩名氏。

 生薬栽培ならではの数々の課題にどう向き合っていくのか――。JA道央はこれまでと同様、生産者の所得向上を第一に見据え、ツムラ側と緊密な連携を図っていく。