肥料高騰への解決策を探れ!

可変施肥でコストを削減する、JAやつしろ

コスト上昇の波が農業経営にも押し寄せている。ロシアのウクライナ侵攻などを背景に、農産物の生育に欠かせない化学肥料の高騰が避けられない。熊本県八代市に本所を置くJAやつしろでは、管内で大規模な圃場を経営する農業法人に対し、施肥量をきめ細かく制御できる可変施肥の導入を提案。長年にわたり築き上げてきた強い信頼関係の下、コスト高に負けずに収穫量の拡大を図る「稼げる農業」の実践を後押しする。
JAやつしろ 営農部 中央総合営農センター 経済渉外係 係長 上村優蔵 氏
JAやつしろ 営農部 中央総合営農センター 経済渉外係 係長 上村優蔵 氏

 化学肥料の価格が急上昇したのは2022年6~10月期。対前期比で約1.5倍にまで跳ね上がった。2022年11月~23年5月期には、さらに対前期比で約10%増。勢いは弱まったものの上昇基調は依然として続く。「その後、下落基調に転じましたが、高止まり傾向に変わりはありません」。JAやつしろ営農部中央総合営農センター経済渉外係係長の上村優蔵氏は卸売価格の推移をたどる。

 どんな農産物でも売り上げ増には収穫量の拡大が欠かせない。圃場に化学肥料を施し栄養分を補う必要が出てくる。「肥料ばかりか、燃油まで価格が上がりました。生産者にとっては厳しい経営環境が続いています」(上村氏)。

 農林水産省は肥料高騰対策の補助事業を創設したが、それでも営農規模の大きな生産者の肥料代はかさみ、大きなダメージは免れない。

アグリ日奈久 代表取締役社長 白石節夫 氏
アグリ日奈久 代表取締役社長 白石節夫 氏

 「肥料代は年間500万~600万円。周囲で営農する生産者の10倍ほどです。コスト高は農産物に転嫁が難しいため、その分、利益が削られます」。大規模営農者として苦しい胸の内を明かすのは、アグリ日奈久(ひなぐ)代表取締役の白石節夫氏だ。

 同社は日奈久地区の集落営農を目的に2010年に設立された農業法人である。「この地域は小規模営農者が多い。例えば農機具を共同利用するなどコスト負担を分かち合わないと利益を残せません」(白石氏)。

 圃場は法人立ち上げに参画した生産者が保有していたものや地区内で後継者難を理由に受け入れてきたものの合計約140ha。技能実習生3人を含む10人を従業員として雇い入れ、米、小麦、露地野菜を生産する。

 モットーは共同化を通じて利益を上げること。生産性の向上をもたらす先進的な機器やシステムをいち早く取り入れ、農業の魅力を若者に訴えかけることにも力を注ぐ。「防除作業用ドローンを国の補助金を用いて導入したのは全国で2番目です。農業という産業に先進性を感じさせ、目を向けてもらいたいと思っています」(白石氏)。

肥料高騰対策を「TAC」で提案

 こうした経営姿勢にうまくはまった肥料高騰対策が、可変施肥の導入である。このシステムは、独BASFグループが開発・提供する「xarvio(ザルビオ)®フィールドマネージャー」。真上からの衛星画像を基に人工知能(AI)も活用しながら圃場の「地力ムラ」や「生育ムラ」を確認し、田植え時の施肥量を最適化する。

※ xarvio(ザルビオ)®は、BASFの登録商標です。

 地力ムラとは土壌の肥沃度の差。圃場が多ければ、場所によってムラが生じやすい。一方の生育ムラは、地力ムラの結果として起こったり、土壌の水はけの違いから起こったりする。これらのムラを踏まえ、地力や生育の良い所で施肥量を抑え、反対に悪い所で施肥量を増す。この可変施肥によって施肥量を最適化できれば、収穫量の拡大を図りながらも肥料代は最小限に抑えられる。

 かつては生産者自らが圃場を回り、経験・勘を頼りに地力ムラや生育ムラを見極めたうえで、手で散布する肥料を巧みに加減していた。「ザルビオ」は、圃場を目視してムラを見極めるというベテラン生産者の役割を、衛星画像を活用して担う。

 この「ザルビオ」を白石氏に提案したのが、「TAC」を担う上村氏だ。「TAC」とは、地域農業の発展を支援するJAグループの活動である。「T(とことん)A(会って)C(コミュニケーション)」をキャッチコピーとするが、その役割の一つは地域農業の担い手に寄り添って課題解決をともに図っていくことにある。上村氏はJAやつしろに4人いる「TAC」専任者の1人だ。

アグリ日奈久の社屋(左)。「TAC」ロゴマークを付けたJAやつしろの車(右)
アグリ日奈久の社屋(左)。「TAC」ロゴマークを付けたJAやつしろの車(右)
アグリ日奈久の社屋(左)。「TAC」ロゴマークを付けたJAやつしろの車(右)

 「アグリ日奈久は圃場が多いだけに、肥料高騰で大きな打撃を受けていることは分かっていました。経営環境の悪化にどう対処していくかという話の中で、『ザルビオ』の提案が解決策につながるはず、と確信したのです」

 多い時は週2回は顔を出すというなじみの間柄。営農規模に見合う人手を十分に確保できないという悩みにも接し、過去には水管理の省力化を図る水田用自動給水機を提案した経験も持つ。アグリ日奈久であれば、防除作業用ドローンの導入のように、先進的な機器やシステムに抵抗がないことも分かっていた。「一般的にスマート農業の普及はハードルが多いのが実情です。理由の一つは、農業法人であってもパソコンを得意とする人材が限られるからです。ところがアグリ日奈久ではそういう心配はなく、安心して提案できました」と上村氏は笑顔を見せる。

取材に訪れた1月はカリフラワーの収穫期。八代市は全国有数の産地でもある(左)。若手の外国人労働者もアグリ日奈久の中核人材だ(右)
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取材に訪れた1月はカリフラワーの収穫期。八代市は全国有数の産地でもある(左)。若手の外国人労働者もアグリ日奈久の中核人材だ(右)
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取材に訪れた1月はカリフラワーの収穫期。八代市は全国有数の産地でもある(左)。若手の外国人労働者もアグリ日奈久の中核人材だ(右)