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その上村氏からの提案を、白石氏はどう受け止めたのか――。
法人設立の経緯から分かるように、白石氏は農業における共同の重要性を強く意識する。「“自分さえ良ければいい”という気持ちでは農業経営はできません。歴史を遡り、生産者同士がなぜJAを立ち上げたのか、その精神を大事にしたいと考えています」。こうした思いを持つだけに、JAへの信頼は厚い。2017年からは、JAやつしろの理事を務める立場でもある。
個々の職員との間についても、長年にわたる付き合いの中で信頼関係を築き上げてきた。「私自身、1日3回は圃場を見に行くのを日課にしていました。圃場を見て考えることで、農産物を見る目が養われます。そこはJA職員も一緒です。私の相談に的確な回答を返してくれるようになると、『一人前になったなぁ』と信頼感が高まります」。

「TAC」からの提案を受け止める土台には、こうしたJA職員への信頼感が根差している。「例えば新たな提案を受けた時、『あなたが言うのなら導入しよう』と職員への信頼感で良し悪しを判断することもあります」(白石氏)。
2021年、白石氏はJAやその職員への信頼感を土台に「ザルビオ」の試験導入を決める。一番の狙いはコストを抑えて利益を上げること。可変施肥で肥料代が抑制できてもシステム利用に莫大なコストがかかるようでは本末転倒だ。この栽培管理支援システムをまずは試してみて、コストパフォーマンスを見極めたい。
そこでまず、別の農機具メーカーが開発・提供していた同様のシステムと並行して試すことにした。このシステムが「ザルビオ」と大きく異なるのは、(衛星画像ではなく)ドローン画像を基に圃場の地力ムラや生育ムラを確認する、という点だ。圃場の状況把握の仕組みが異なる二つのシステムの結果を比較評価できる態勢を取ったのだ。
比較評価の舞台は主食用米の水田2枚。軍配は「ザルビオ」に上がる。その理由を白石氏はこう説明する。「地力ムラも生育ムラも、画像データを基に確認した結果はほぼ一緒でした。しかしコストが違った。年間コストが『ザルビオ』は約5分の1。また衛星画像だから、ドローン画像と違って撮影に人手がかかりません」。
翌2022年には、「ザルビオ」を用いた可変施肥に挑む。地力ムラや生育ムラの確認結果を地図上に落とし込み、まず「地力マップ」や「生育マップ」を作成。そのデータを可変施肥機能付きの田植え機に読み込ませ、地力の高い所や生育の良い所では施肥量を標準的な量に比べ一定程度落とす、というやり方である。

舞台とした圃場はやはり水田2枚。1つは「地力マップ」を基に、もう1つは「生育マップ」を基に施肥量を決める作戦だ。品目を主食用米の倍近い収穫量が見込める加工用米に改め、コスト削減による利益の大幅増を狙った。
白石氏は「せっかく可変施肥に挑戦するなら、単位面積当たりの収益性が高い品目でやらないともったいない。そういう品目でこそ、コスト削減の効果がどれだけ出るかが、農業経営にとって重要になりますから」と解説する。

肥料の削減効果は「地力マップ」に基づく可変施肥で10a当たり0.4kg、「生育マップ」に基づく可変施肥で同5.2kg。「アグリ日奈久で作付けする水田全体では、最大4472㎏の肥料削減が見込めることが分かりました」(上村氏)。ピーク時の小売価格を基に換算すると、削減可能な金額は最大100万円規模に達する。
一方、収穫量については「地力マップ」を基に施肥量を決めた圃場が、「生育マップ」を基に施肥量を決めた圃場を上回った。上村氏はその要因を「肥料を圃場内に満遍なく行き渡らせることができた結果では」と分析する。
収穫量と施肥削減量のバランスから、2023年は「地力マップ」に基づく可変施肥を採用し、前年同様の成果を上げることができた。試験導入期間が当初の約束で2023年までなので、「ザルビオ」の利用は仕切り直しの時期を迎えている。
今後も利用を継続していくのか、継続する場合どのような条件下で利用するのか。白石氏は「今後の利用についてはJAと近いうちに話し合います。当社としては継続利用の方針です」と言い切る。
「稼げる農業」の実践ツールとして「ザルビオ」を高く評価する白石氏。これまで貸与を受けていた可変施肥機能付きの田植え機についても、国の補助金を活用して購入に踏み切ることも視野に入れている。可変施肥の本格的な効果が表れるのはこれからだ。JAやつしろとアグリ日奈久の二人三脚から、暫くは目が離せなさそうだ。
