野菜の有機栽培で活路を拓く!?

アグリビジネスの“鑑”を築いた、JAやさと

就農希望者を2年で担い手に

 JAやさとでは有機栽培部会の立ち上げから間もない1999年、有機栽培の技術を実際の作付けを通して学ぶ施設を管内に開設した。その名は、「ゆめファームやさと」。約1.5haの圃場をJAが管理し、研修生に無償で提供する。

 研修生の受け入れは年1回・1家族。家族単位の受け入れには理由がある。「有機栽培はやはり骨が折れるからです。心が折れて脱落しないように互いに支え合える関係の夫婦を基本に据えています」と、廣瀬氏は説明する。

「ゆめファームやさと」の看板。開設時から新規就農者を送り出し続けている
「ゆめファームやさと」の看板。開設時から新規就農者を送り出し続けている

 研修期間は2年間。研修生は自前で確保した自宅から圃場に通い、作付けから収穫まで生産者と同じように自ら行う。指導役は地域の先達や有機栽培部会の会員。最低限必要な資機材は運搬作業に必要な軽トラックを除いて、研修期間中はJA側でも用意する。

 収穫物は有機栽培部会としてJAに委託販売し出荷する。圃場は有機JAS認証を受けるのに必要な条件を満たすため、研修生が収穫した作物でも有機JASマークを表示し流通させることができる。

 研修生は研修期間を終えると管内に自前で圃場を確保し、有機栽培の生産者として独立。同時に有機栽培部会の会員になる。廣瀬氏は「脱落者はこれまでいません。修了生の中には家庭の事情でこの地域を離れざるを得なくなった例はありますが、約8割は定着し有機栽培の生産者として活動しています」と総括する。

JAやさとの有機栽培の取り組みが評価され、JA全中、JA都道府県中央会、NHKが主催する日本農業賞の第52回選考において「集団組織の部」で大賞を受賞。さらに農林水産省主催による農林水産祭で令和5年度(第62回)内閣総理大臣賞を受賞している
JAやさとの有機栽培の取り組みが評価され、JA全中、JA都道府県中央会、NHKが主催する日本農業賞の第52回選考において「集団組織の部」で大賞を受賞。さらに農林水産省主催による農林水産祭で令和5年度(第62回)内閣総理大臣賞を受賞している

 これだけの定着率を上げられるのは、安定した商流の確保によって有機栽培の生産者として独立できる経営環境があるからこそ。「有機野菜の栽培が収入につながることが目に見えています。生産者は安心して有機農業に取り組めます」(廣瀬氏)。

 有機農業に携わりたいという新規就農希望者は根強く存在する。その潜在ニーズを感じ取っていたのも、JAやさとで有機野菜の販売を主導した柴山氏だという。「有機野菜の販売を始めた後、東京都内の取引先との間を行き来する中、その栽培に携わりたいという声を耳にしたそうです。それが、『ゆめファームやさと』開設の原動力になりました」。担い手育成に至る経緯を廣瀬氏は語る。

国の農業政策の後押し受け値上げ交渉

 こだわりの強さから、主流ではないが、底堅い人気に支えられる有機野菜。消費者と担い手の両面において、JAやさとはその市場性をいち早く見抜き、先行者として利益を得てきた。産直部門での販売額はいま慣行野菜に並ぶほどまでに膨らみ、有機栽培部会の会員は33戸と右肩上がりに増えた。慣行栽培の担い手が減る時代の流れの中、有機栽培への期待感は大きい。

 その期待をさらに膨らませるのが、国の政策だ。農林水産省は2021年5月、「みどりの食料システム戦略」を公表し、2050年までに有機農業に取り組む面積を耕地全体に占める割合で25%まで引き上げる目標を掲げた。国が有機農業の推進を打ち出したことで、有機野菜を食べようという機運が一段と高まりそうだ。

有機栽培部会のロゴとスローガンを背景に、笑顔の廣瀬氏。ロゴは部会に所属する生産者からデザインを募集したという
有機栽培部会のロゴとスローガンを背景に、笑顔の廣瀬氏。ロゴは部会に所属する生産者からデザインを募集したという

 JAやさとでは、いまこそ好機と捉え、有機栽培部会と足並みをそろえながら、取引先との間で値上げ交渉に踏み出した。廣瀬氏によれば、有機野菜は慣行野菜に比べ1.5~2倍は高く売れるが、栽培に掛かる手間を考えれば、それでは不十分という。そんなまだ報われない現実が、値上げ交渉に踏み出す背景にある。

 有機栽培の次なる展開は水稲だ。廣瀬氏自身、2023年に水稲の有機栽培を体験し、可能性を実感したという。「雑草を処理する時期は野菜と違って少なくできそうです。そのタイミングを間違わなければ野菜より栽培しやすいと思います」。管内で有機米づくりに取り組む生産者6戸で有機米研究会も立ち上げた。

 具体的な取引先も想定する。「学校給食用に欲しいという要請を受けているほか、東都生協やよつ葉生協からも引き合いが見込めます。有機米は供給不足です。有機野菜の次は有機米の出荷を増やしていきたいですね」(廣瀬氏)。

 安全でおいしい農産物を食べてもらいたい――。有機農業に取り組む生産者にはそんな強い思いがある。JAやさとも、協同組合としてその思いは当然に共有する。その上で「地域」という視座も持つ。地域の農業をどう維持・発展させていくか――。有機農業への取り組みに、地域の将来も重ね合わせている。