脚光! 水稲栽培の新常識

農業でJ-クレジットを創出する挑戦、JAあさひかわ

温室効果ガスの削減量を国が認証するJ-クレジット制度の活用が、農業分野でも進む。活用をけん引するのは、2023年4月に“方法論”の一つに組み込まれた「水稲栽培における中干し期間の延長」だ。北海道の米どころであるJAあさひかわの管内では2024年度以降、半数近い水稲生産者がJAの支援を受けながら取り組み、J-クレジットの認証・販売に挑む。

 水と緑に覆われた水田が、温室効果ガスを排出する。曲者は、土。地中に潜むメタン生成菌だ。この微生物が、酸素が少ない条件下でメタンを生み出す。農林水産省の資料によれば、水田からのメタン排出量は農林水産分野の温室効果ガス排出量の3割近く(2022年度実績)を占めるという。

 水田が排出するメタンは温室効果ガスとして侮れない存在だ。気候変動政府間パネル(IPCC)の第5次評価報告書によれば、温室効果は二酸化炭素(CO2)の実に28倍。地球温暖化の原因とみられるCO2の比ではない。

 水稲栽培における中干しは、そんなメタンの排出量を削減する。

 もともとは収量や品質の低下をもたらす過剰な“枝分かれ”を防止する作業だ。田植えの後、穂が出る前に水を一時的に抜き、田面をむき出しにする。期間が長いほど、メタン生成菌の働きが鈍り、メタンの生成が抑えられる。

 この中干し期間の延長が2023年4月、J-クレジット制度に組み込まれた。この制度は、温室効果ガスの排出削減・吸収量をクレジットとして国が認証し、取引を可能にするもの。認証対象期間は最大8年間。認証クレジットは第三者に相対取引で販売するか、カーボン・クレジット市場を通して販売することで、生産者の副収入になる。

水田からメタンが発生する仕組み。酸素がない環境で増殖するメタン生成菌が、土壌内のCO₂・酢酸などからメタンを生成する。落水期間を長くする(=中干し期間を延長する)ことで土壌に酸素が入り、メタンの発生を抑制できる (出所:農林水産省「「水稲栽培における中干し期間の延⾧」のJ-クレジット制度について」の資料を基に作成)
水田からメタンが発生する仕組み。酸素がない環境で増殖するメタン生成菌が、土壌内のCO₂・酢酸などからメタンを生成する。落水期間を長くする(=中干し期間を延長する)ことで土壌に酸素が入り、メタンの発生を抑制できる (出所:農林水産省「「水稲栽培における中干し期間の延⾧」のJ-クレジット制度について」の資料を基に作成)
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生産者の利益につながるなら支援する

 JAあさひかわ(北海道旭川市)が中干し期間の延長で生み出されるクレジットの認証・販売支援に乗り出したのは、その翌年、2024年度のことである。

JAあさひかわ 営農企画部 企画課 企画外郭組織担当 推進役 平瀬大也 氏
JAあさひかわ 営農企画部 企画課 企画外郭組織担当 推進役 平瀬大也 氏

 背景には、米の相対取引価格の低迷がある。「2023年産までは再生産価格が見合っておらず、赤字経営の生産者も散見されていました」。JAあさひかわ営農企画部企画課企画外郭組織担当推進役の平瀬大也氏は振り返る。

 認証クレジットの販売で副収入を得られれば、所得向上につながる。「米の集荷で競合する企業の中には、J-クレジット制度への参画を管内の水稲生産者に先んじて呼び掛けるところもありました。JAとして制度にどう向き合うのか、当初より真剣に検討していました」(平瀬氏)

 全国を見渡せば、クレジットの認証・販売に乗り出そうと中干し期間の延長に取り組む生産者はすでに現れ始めていた。農水省の調べによれば、2023年度は初年度ながら、クレジットが認証された取り組み面積は全国で約4600ha。北海道は東北地方に次ぐ規模で約1100haに上るという。

数多の表彰を受けてきたJAあさひかわ。品質にこだわりのあるJAとして名を馳せてきた
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数多の表彰を受けてきたJAあさひかわ。品質にこだわりのあるJAとして名を馳せてきた
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数多の表彰を受けてきたJAあさひかわ。品質にこだわりのあるJAとして名を馳せてきた

 2024年3月、認証クレジットの販売に向けた説明会の機会を得る。主催者は、JAグループ北海道で経済事業を受け持つホクレン農業協同組合連合会(札幌市)。説明役は、カーボン・クレジットの創出・販売支援を事業の一つに掲げるGreen Carbon(東京都千代田区)だ。全国の生産者や農業法人などと手を組み、2024年1月に中干し期間の延長による国内初のクレジット認証を受けている。

 平瀬氏は地域農業の担い手の下に出向くTACと呼ばれるJA担当者とともに説明会に出席し、J-クレジット制度への向き合い方を検討する。その結果、Green Carbonを通じてクレジット認証を受け、そのクレジットを販売する、という生産者の取り組みを支援する方針を固める。「生産者の利益につながるなら、支援したい。JAとしての対応を問われながら見送るようでは、信頼を損ねかねません」(平瀬氏)

 検討段階ではクレジット認証に向けた生産者の手間を気遣った。平瀬氏によれば、クレジット認証を受けるのに必要な新たなデータは主に2つあるという。

 一つは、水田の日減水深。1日当たりの水位変動で圃場に立てた物差しで測り取る。値が小さいほど水はけは悪く、メタンの生成量は多くなる。中干し期間の延長で生み出されたクレジットの販売額算定に用いる。