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農家民宿は幸い、村内3つの集落ごとにまとまって立地する。集落間は最も離れていても、車で20分ほどの距離。一つの学校が集落をまたいで分宿することになっても、教員は車や電動自転車で巡回しながら効率的に生徒の管理にあたれる。
学校側の依頼を受けて農家民宿を手配するのは、JA大北である。
農家の高齢化・後継者不足や観光客数の減少に伴い、農家民宿の軒数は現在、減少傾向にある。「受け入れ先として登録されている農家民宿は35軒ほど。しかし受け入れに対応できる農家は今、30軒を切っています」と中村氏は話す。
先行き見通しが厳しい中、受け入れを止めた農家に再登板を促したり、学校行事の受け入れ時に限って営業するよう働き掛けたりするなど、中村氏は必要な農家民宿の確保に力を注ぐ。「再登板の例は残念ながらまだ見られません。しかし、受け入れ時に限って民宿を営業してくれる農家は、1~2割は出てきています」
もう一つ重要な役割は、安全管理である。学校管理下の活動とはいえ、体験や学習の場を提供する立場として安全管理は無視できない。とりわけ中村氏が注意を払うのは、農家民宿で提供する食事における食物アレルギーである。
アレルギーに関する情報は、学校側から旅行会社経由で入手する。一方、生徒の宿泊中に提供する食事の内容は、農家民宿から提示してもらう。「それらの情報を照らし合わせ、内容に支障があれば、見直しを求めます」(中村氏)


さらに受け入れ当日、中村氏は自らに任務を課す。通常、教員の要請があれば、生徒が宿泊する農家民宿を一緒に巡回する。しかし要請がなくても、農家民宿を単独で巡回し、農家側の表情を観察することを心掛ける。「表情から判断して、受け入れ負担が重そうであれば、それをどう軽くするか、検討する必要があります」
役割に共通するのは、農家民宿の負担を和らげることで生徒に提供する体験価値の向上を図ろうという思いだ。原則、農家民宿のサポートに徹する。
ただ時には、体験価値の向上へ、仕掛け人の役回りも担う。
2026年5月、JA大北は三鷹中等教育学校の2年生を受け入れ、管内の池田町で地元の農産物生産・販売団体と連携し田植え体験を実施した。この時、中村氏は代表理事組合長(当時)に同行を求め、圃場に送り出したのである。
例年、田植え体験後、生徒は農家民宿に宿泊。長野オリンピックの舞台の一つでもある白馬ジャンプ競技場を見学した後、農家民宿にもう一泊する。「生徒は白馬探究の一環として、JA大北の管内を広く訪ね回ります。そこで組合長には、地域の代表として同行してほしい、と要請することもあります。連携した団体にとっても、自分たちの活動を認めてもらえたという励みになります」(中村氏)
「自然」や「交流」の力なのか、教育面では一定の成果も見られる。一例は、心の持ちようの変化。「自己肯定感が低く、ひきこもり気味だった生徒が、修学旅行にだけは参加したところ、前向きな気持ちで帰宅したそうです」と中村氏は明かす。もう一例は、家庭生活での変化。「修学旅行から帰ると、自ら進んで家の手伝いをするようになった生徒がいるそうです」(中村氏)。豊かな自然環境の下、農家民宿という場で都会では味わえない体験を重ねることが、生徒の成長につながるようだ。
生徒の素直な反応は、農家民宿にとって誇りや喜びでもある。

1960年代、スキーブームを背景に先代が民宿経営に乗り出したという松澤利彦氏。民宿に宿泊した生徒には、農作業体験を通じて生産者としての苦労を伝える。「帰宅後、生徒からは学校を通して、滞在中の感想が感謝の言葉とともに届きます。多いのは、食づくりから体験して食事を味わうとおいしさが違う、という声です。穫れたての野菜は、都会で買うものとは味が違いますから」
同じく先代が民宿経営に乗り出したという中村堅氏は、田んぼのカエルに興味を持ち、近くの無人駅にはしゃぐ生徒と、目新しい気分で接する。「都会育ちの子どもと話す機会は日常そうありません。私たちにとっては新鮮です。親しくなると、『ウチは千葉』『ウチは長野』と、ルーツの話で盛り上がったりしています」

白馬は今、山岳リゾート地として不動産投資が盛んだ。農家民宿は減る一方だが、内外の資本によるホテルの開発事業は活況を見せる。国土交通省が毎年公表する地価公示は2019年以降、商業地や別荘地で右肩上がり。今ではインバウンドバブルを背景に「ラーメン1杯3000円」という破格の値段が印象付けられた北海道のニセコ町になぞらえ、「第二のニセコ」とまで呼ばれている。
「地域外からは、経済的な利益を目的に来る人が増えた印象です。そうではなく、素直に白馬を好きになって来てほしい」と中村氏は願う。都市農村交流を通じて都会育ちの子どもに長年提供してきた体験価値を、今後どう持続させていくのか――。農家民宿という地域資源を生かしたJA大北の取り組みは今、正念場に立つ。
