
柏木孝夫(かしわぎ たかお)氏。東京工業大学特命教授、東京都市大学教授、コージェネレーション・エネルギー高度利用センター(ACEJ)理事長。1970年、東京工業大学工学部卒、79年に博士号取得。80~81年、米国商務省NBS招聘研究員。88年、東京農工大学工学部教授、2007年、東京工業大学大学院教授、2012年より同大学特命教授。2013年、東京都市大学教授を兼務。2011年よりACEJ理事長。現在、経済産業省総合資源エネルギー調査会省エネルギー・新エネルギー分科会長、同基本政策分科会委員を務める。主な著書に「スマート革命」「エネルギー革命」など
柏木孝夫氏(以下敬称略):スマートコミュニティの構築によって、例えば、電力を例にすると、これまで供給側から需要側へ一方的に電力が供給されていたものが、需要側におけるデマンドレスポンスなどによってうまく協調して、不安定性の高い自然エネルギーを最大限に取り込めるようになります。それを社会コストミニマムで達成するためには、コージェネのような化石エネルギーの高度利用を可能にするシステムと、蓄電システムとを組み合わせて高効率化することが必要です。
これができれば、大規模集中型の電力システムをダウンサイジングできるでしょう。また、新しいビジネスモデルも生まれてくるし、そうしたインフラシステムをまるごと輸出することもできます。
スマートコミュニティや日本のエネルギー戦略を考えていく上では、まず電力システム改革が必要でしょう。しかし、参議院で安倍晋三首相に対する問責決議が可決されたことにより、電気事業法改正案は廃案となってしまいました。この法案および電力システム改革に関して、今後どのような展開になると、佐藤先生は考えていらっしゃいますか。

佐藤ゆかり(さとう ゆかり)氏。経済産業大臣政務官、自由民主党・参議院議員。1988年に米コロンビア大学大学院国際関係学修了、98年に米ニューヨーク大学大学院でPh.D.(金融経済学専攻)取得。証券会社勤務を経て、2005年に衆議院議員に初当選。2010年からは参議院議員、2012年12月から現職。主な著書に「強い円、強い日本経済」「日本経済は大逆転できる」など
佐藤ゆかり氏(以下敬称略):柏木先生がおっしゃる通り、再生可能エネルギーの導入や、電力小売りの完全自由化によって新規参入を促すには、まず電力システム改革を実行する法案の成立が必要です。参議院選挙の結果、与党が安定多数の議席を得ることができ、いわゆる衆議院と参議院の「ねじれ」も解消されました。改めて遅延なき速やかな法案の可決に向けて努力したいと考えています。
橘川武郎氏(以下敬称略): 私は、電力システム改革のプランの中で、工程が示されていますが、もっと大胆なプランが必要ではないかと思っています。なぜなら、原発の代替コストは、東京電力だけで1兆円規模に膨らみ、電力料金の値上げが相次ぐ状況にあります。国会を通じた法案に基づく電力システム改革よりも、東京電力の再生を起点とした「市場による再編」の方が早い可能性があると考えています。
柏木:つまり、電力事業者がガス事業者など他業界と手を組んで、電力もガスも、エネルギーを総合的に扱うガス&パワーモデルに再編されたりすることによって、ある意味では、市場が電力システム改革を先導するかもしれない、ということですね。
橘川:そうですね。中部電力が東京湾に進出してくれば、それで地域間競争が始まります。また、石油火力発電をガスに転換するためにサハリンからガスパイプラインを敷くというようなことがあれば、大きく再編が進むでしょう。
柏木:橘川先生は、以前から、「電力システム改革はもちろん重要だけれども、同様にガスのシステム改革も重要」とおっしゃられていましたね。

橘川武郎(きっかわ たけお)氏。一橋大学大学院商学研究科教授。1983年、東京大学大学院経済研究学科博士課程単位取得。96年、東京大学社会科学研究所教授、2007年から現職。2013年より日本経営史学会会長。現在、経済産業省総合資源エネルギー調査会資源・燃料分科会長、同基本政策分科会委員を務める。主な著書に「電力改革 ─ エネルギー政策の歴史的大転換」「資源小国のエネルギー産業」など
橘川:電力自由化というと、電力業界へ参入する方ばかりがイメージされてしまうようですが、その先にはガスの自由化があります。日本のエネルギーを考えてみると、石油は内需が減り、電力は減らない、ガスは内需が増える。つまり、ガスが成長産業なのですから、経済学の常識からいって、全てを自由化したら、電力会社や石油会社がガス業界へ参入してくる、という方が本来の姿です。
そして、ガス業界は、天然ガスだけに依存しているところがありますが、電力や石油業界は、原子力もあるし、石炭もあって色々と打ち手を持っています。長い目で見ると自由化というのは、ガス市場への他産業からの参入ということが本質になるのではないかと考えています。
柏木:自民党政権の成長戦略では、規制改革が要になると安倍首相もおしゃっていましたが、その流れは参院選後も変わりませんか。
佐藤:電力システム改革も積極的に推し進めていきますし、年内を目途にエネルギー基本計画を策定していきます。長期にわたって安価で安定的な供給を実現するというエネルギー政策の理念の下で、再生可能エネルギーやコージェネなど様々な可能性を考えながら基本計画を打ち出していく。この方向性が逆戻りすることはあり得ません。
先ほど橘川先生から、市場を中心とした電力業界の再編が進むのではないかというお話がありました。これも大事なことだと思いますが、同時に、法的整備を行い、中小の新電力事業者の参入を促しながら、発送電分離を進めていく必要があると考えます。