
有馬 純 (ありま じゅん)氏
東京大学公共政策大学院教授
1959年生まれ。神奈川県横浜市出身。82年東京大学経済学部卒業。通商産業省(現経済産業省)入省。2001年資源エネルギー庁国際エネルギー戦略企画官、02年国際エネルギー機関(IEA)国別審査課長、06年資源エネルギー庁国際課長、07年同庁エネルギー交渉担当参事官に就任。08年大臣官房審議官地球環境問題担当、11年日本貿易振興機構(JETRO)ロンドン事務所長兼地球環境問題特別調査員を歴任。15年より現職。主な著書に『地球温暖化交渉の真実―国益をかけた経済戦争―』(中央公論新社)、『精神論抜きの地球温暖化対策―パリ協定とその後―』、『トランプリスク-米国第一主義と地球温暖化-』(エネルギーフォーラム社)など。
2020年は「パリ協定」実施元年でした。30年に向け、各国は温室効果ガス排出削減の国別貢献目標(NDC)を出しています。しかし、パリ協定が目標に掲げる1.5度抑制の達成には、世界全体で現時点から45%に相当する290億~320億トンの追加削減が必要です。途方もない数字です。そこでゼロエミッションの議論が出てきています。
パリ協定の規定を超え、ネットゼロエミッションはデファクトスタンダード化しています。50年のカーボンニュートラルにコミットした国は20年10月時点で123カ国・1地域に達しました。今年1月にバイデン政権が誕生した米国もこれに加わります。昨年9月には中国の習近平国家主席が60年までのカーボンニュートラルを目指すと表明しました。
こうした世界の動きを牽引してきたのが欧州連合(EU)です。19年、欧州委員長に就任したフォン・デア・ライエン氏は「欧州グリーンディール」政策を掲げ、50年ネットゼロエミッションの方向性を打ち出しました。その1つの施策として、30年までの削減目標をそれまでの1990年比40%減から55%減に引き上げました。グリーンファイナンス戦略も講じ、サステナブルな活動とそうでない活動を色分けする「EUタクソノミー」の議論も進めています。世界貿易機関(WTO)のルールと整合する国境調整炭素税も導入する方針です。
このように2019~20年にかけて、脱炭素化に向けた大きなうねりが生じていたところを襲ったのが新型コロナウイルス感染症です。各国で前例のないロックダウンが行われた結果、20年のエネルギー需要は6%ほど減少しました。
国際エネルギー機関(IEA)の見通しによれば、20年のエネルギー起源の二酸化炭素(CO2)排出量は前年比8%減。ただコロナ禍を克服し経済が回復すればリバウンドする可能性が高い。経済を回復させつつ、パリ協定と合致するようなCO2排出量の軌跡をたどるためには需給両面の対策を講じなくてはなりません。
■ 各国の景気回復策のグリーン度

コロナ経済対策は25カ国・地域中、7割超で環境に悪影響(出所:ビビッド・エコノミクス。2020年12月時点)