
小鑓隆史(こやり・たかし) 氏
厚生労働大臣政務官
1966年滋賀県生まれ。京都大学大学院卒業後、通商産業省(現経済産業省)へ入省。中小企業政策や産業技術政策、環境エネルギー政策に携わるとともに、英国留学や日本貿易振興機構の米国事務所勤務を経験。第2次安倍内閣では、内閣参事官としてアベノミクスの柱である成長戦略のとりまとめに中心的立場として携わった。東工大特任教授を経て、2016年の参議院選挙にて国政へ。20年の菅内閣発足時に厚生労働大臣政務官に就任。医療・福祉分野を担当している。
柏木孝夫氏(以下敬称略):世界が脱炭素に向けた動きを加速しています。米国のバイデン政権は温室効果ガス削減で高い目標を掲げ、「2035年までに電力部門のCO2(二酸化炭素)排出ゼロを実現」「発電所などのインフラに4年間で計2兆ドルを投資」といった政策を次々に打ち出しました。菅政権も昨年、所信表明演説で「2050年までにカーボンニュートラルを達成」と宣言しています。世界の動き、日本の戦略などをどう見ていますか。
小鑓隆史氏(以下敬称略):米国は州ごとにエネルギー政策もずいぶん違います。どういう方向に進むかをよく見極めなくてはなりません。10年ほど前にヒューストンに勤務していた経験から言うと、米国内がグリーン化や脱炭素化に向かって生活やインフラを転換していくこと自体、正直ピンとこないところもあります。ただ、バイデン政権となった米国が、前トランプ政権とは正反対の方向に進みつつあるのは確かです。中国との関係、欧州連合(EU)との協調、民主党の政策の方向性などから、今のエネルギー政策が出来上がっているものと思います。
カーボンニュートラルは地球温暖化という世界共通の課題を解決することが狙いです。他方で、産業、エネルギーセキュリティーなど国・地域が抱える課題を解決しようという思惑の集合体から成り立つ政策でもあり、中身は国・地域によって自ずと異なります。日本としては、このカーボンニュートラル政策によって何を狙い、何を得ていくのか。国際競争の観点からも、その点をきっちり踏まえながら前に進めることが重要だと考えています。
田辺新一氏(以下敬称略):2016年に発効した「パリ協定」は「産業革命前からの温度上昇を1.5度~2度未満、できれば2度未満に抑える」と定めています。では、その産業革命とは歴史的にどのような意味のあるものだったのか。一言で言えば「石炭エネルギー革命」です。石炭が取れるようになったことで蒸気機関が生まれ、エレベーターやエアコンなど様々な電化製品の恩恵を受けられるようになり、高層建築物ができて、都市が生まれました。旅行に行けるようになり、色々なものを食べられるようにもなりました。つまり、石炭エネルギー革命によって、我々は近代的な生活を送れるようになったのです。それを変えようというのが今回のカーボンニュートラルです。今、まさに新たなエネルギー革命が起きようとしているのです。
革命が起きるときには旧勢力にしがみつく人もいれば、新勢力につく人もいます。EUは今、企業の経済活動が地球環境にとって持続可能か否かを判定し、グリーンな投資を促す「EUタクソノミー」の導入に動いています。この仕組みは、まさに新旧勢力を色分けするものとして作られている気がします。最近では世界中の金融機関が積極的にESG投資を行っています。いつの世も商人は次の時代を見て動くものであり、既にそういうムーブメントが起き始めたのだと捉えています。