オリンピック・パークにおける事業は、図3に示したように、(1)コンセッション契約により、Cofelyはオリンピック・パークで2つのエネルギー・センターと熱導管のデザイン、建設、ファイナンスを行い、(2)オリンピック・パークの中は、全ての開発が熱導管に接続することで、Cofelyが将来にわたって顧客を獲得できることが保証され、(3)これによって、CO2排出量削減というロンドン市、ODA、地元自治体の目標の実現につながっている。

図3 オリンピック・パークにおける低炭素型市街地形成のための主体間の関係。各種資料、ヒアリング調査より筆者作成
もう一つ特筆すべき点として、この2つのエネルギー・センターはオリンピック・パークの外側へも熱供給していることがある(図4)。オリンピック・パークのマスタープランを見ると、「パークの内外にかかわらず、熱の新規ネットワーク、および既存ネットワークの延伸を支援する」とある。既存のネットワークが隣接地域にある場合、オリンピック・パークを越えて面的ネットワークが延びることになる。オリンピック・パークの周囲では運河のあるケースが多いが、その整備費用が決着するのであれば、より積極的に事業を進めると位置付けている。

図4 オリンピック・パークの外側に延びる熱導管。2014年9月筆者撮影
オリンピック・パークの内側の開発には前述したように全て熱導管への接続義務が課せられているものの、外側は基礎自治体の権限になる。しかし、地元行政は、オリンピック・パークの外側の開発に対して、開発協議の段階で積極的に熱導管への接続を勧めているという(*7)。
熱供給事業者側も顧客が増えれば早く投資金額を回収できること、40年という長期の熱供給を契約したところで不動産市場が停滞するリスクもあることから、地域外での顧客増加を支持している。地元行政のタワー・ハムレッツ区は、熱導管の敷設のために仮設橋を建設している。これは、熱供給事業が他のエネルギーよりも市場の5~10%安価であり、接続自体がCO2排出量だけではなく、市場からも求められている(*8)ことが大きい。オリンピック・パークの熱料金は、BEAMA(英国電気技術・製造業連合協会)のインデックスに併せて決定されており、また、コンセッション契約において最低金額で提供するよう決められていることが(*9)、こうした政策推進に影響している。オリンピック・パークの外側への熱導管の延伸は、どれだけ地元地方自治体の協力が得られるかによるものの、現在のロンドン市の積極的なCO2排出量削減方針の状況からすれば、その可能性が決して低くないものと考えられる。
以上のことから、オリンピック・パークの熱供給事業は、(1)2012年のオリンピックのためだけではなく、長期にわたるレガシー計画を考えたものになっていること、(2)そのために民間が投資しやすい状況を「40年」という長期契約で可能とさせていること、(3)貧困層の多い東ロンドンで、低価格エネルギーの供給がより求められていることなどの特徴を持っている。オリンピックは一定期間のイベントであるが、将来いかなる「地域」を作るかという計画と事業のための官民協力体制を、投資と回収を考慮したうえで決定しているのである。
*7 2013年11月、ニューハム区、タワー・ハムレッツ区へのヒアリング調査による。
*8 A Green Legacy for the Queen Elizabeth Olympic Park, http://www.cofely-gdfsuez.co.uk/media/focus/a-green-legacy-for-the-queen-elizabeth-olympic-park/
*9 2013年11月Cofely East London Energy Ltd.へのヒアリング調査による。BEAMAのインデックスを用いて、ガスの卸価格、インフレ率、人件費と材料費を元に毎年価格を見直し、消費者に公表している。