柏木孝夫氏(以下敬称略):「エネルギーの多様化と新しい政策の在り方」をテーマに議論をしていきます。まずは国際動向についてお聞きします。近年、世界の政治・経済の潮流に変化が見られます。かつて英国サッチャー政権や米国レーガン政権は新自由主義を強力に推し進め、日本では小泉純一郎政権がそれに続きました。
第2次トランプ政権の誕生や中国の台頭により、これが変わりつつあります。トランプは保護主義へと逆ネジを巻いています。中国は社会主義体制の下、経済では資本主義を推進しています。エネルギーや環境の政策は、この変化をまともに受けているように感じますが、いかがですか。

竹内 純子 氏(たけうち・すみこ)
NPO法人国際環境経済研究所理事
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。東京大学大学院工学系研究科にて博士(工学)取得。東京電力で、主に環境部門に従事した後、独立。複数のシンクタンクの研究員や、内閣府規制改革推進会議やGX実行会議など、多数の政府委員を務める。気候変動に関する締約国会議(COP)にも長く参加し、環境・エネルギー政策提言に従事。2018年スタートアップと協業してUtility 3.0 の実現を目指す、U3イノベーションズ合同会社を創業し共同代表に就任。主な著書に『エネルギー産業の2050年 Utility3.0へのゲームチェンジ』(共著、日本経済新聞出版社)、『電力崩壊-戦略なき国家のエネルギー敗戦』(日本経済新聞出版社)などがある。
竹内純子氏(以下敬称略):確かに、エネルギーに関係する国際会議に出席すると、頻出単語が変わったと感じます。以前は「Climate Change(気候変動)」でしたが、ロシアによるウクライナ侵略後は「Energy Security(エネルギー安全保障)」になり、今は「Affordability(手頃)」が最も頻繁に出てきます。
グリーントランスフォーメーション(GX)を巡る世界の潮流が変わったのには3つの要因があると整理できます。第1にドイツを筆頭とする欧州の経済状況の悪化です。要因の1つにエネルギー供給の不安定化とコスト上昇が指摘され、GXを目指しつつも、時間軸を調整しようという動きになっています。第2に米国トランプ政権の誕生です。インフレ抑制法(IRA)も全面撤回とまではいかないものの、再生可能エネルギーや電気自動車(EV)向けの政策は大きく軌道修正が図られました。第3に金融や投資家のマインド変化です。脱炭素を目指す金融機関の国際的な枠組み(GFANZ)からも脱退が相次いでいます。
過去、エネルギー政策は足元の現実から10年後を見据える「フォアキャスト」で策定していました。これでは大きな変化は起こせないと、気候変動対策は将来の在るべき姿から「バックキャスト」で導き出すようになりました。結果的に、気候変動対策がエネルギー政策をオーバーライドする形になってしまった。今は2つをつなぐため、現実的なトランジションを考えようという状況にあります。