柏木孝夫氏(以下敬称略):岸田文雄政権は「新しい資本主義」を掲げ、成長と分配の好循環を生み出そうとしています。この座談会では、「2050年カーボンニュートラル達成」に向け、脱炭素と成長の両立について議論したいと思います。
ロシアによるウクライナ侵攻でエネルギー市場に大きな影響が及んでいます。今の状況をどう見ていますか。

山下 ゆかり(やました・ゆかり)氏
日本エネルギー経済研究所常務理事
国際基督教大学卒業、筑波大学大学院経営政策科学研究科修了。1985年日本エネルギー経済研究所計量分析センター入所。2020年6月より現職。エネルギー需給見通し、分析等に従事。温暖化対策、省エネルギー政策立案等を担当、東日本大震災直後の節電対策や省エネルギー政策の策定に関与する。2020年国際エネルギー経済学会会長、2021年Executive Vice Presidentを経て、2022年は同学会Past President。
山下ゆかり氏(以下敬称略):ロシアとパイプラインを結び、天然ガスを輸入する欧州連合(EU)はウクライナ危機で大きな打撃を受けました。天然ガスの代替エネルギーとして原油や石炭の価格も高騰し、世界全体が巻き込まれる形となっています。ロシアとの関係を重視する中東の国々の協力を得ることができず、原油の増産にもいたっていません。緊急の備蓄放出も十分な効果は得られませんでした。
欧米や日本がロシアに対して行う経済制裁は、中国やインドがロシアから安くエネルギーを入手できる状況を生んでいます。6月の先進7カ国(G7)首脳会議でロシア産原油・ガスの取引価格上限設定も合意されましたが、制度設計はこれからです。うまくロシアの収入源を絶ち、戦争終結まで持って行けるのか。日本が投資する「サハリン2」はどうなるのか。見通しは不透明です。
吉田康子氏(以下敬称略):ウクライナ危機では、世界各地でエネルギー安全保障の重要性が再認識されました。ロシアからの天然ガス輸入の依存度が高いヨーロッパの国では、天然ガスを運ぶパイプラインに有事があれば代替のエネルギーを調達しなくてはなりませんが、これが簡単ではないことが明るみに出ました。日本はかねてより「S+3E(安全性、安定供給、経済効率性、環境適合)」をベースとするエネルギー政策を推進してきました。エネルギー政策のあり方について示唆の大きい出来事でした。世界の多くの国々が欧米とは異なる見解と対応を示していることも状況をより複雑にしています。