スペシャルリポート

自由化時代における
エネルギー・環境イノベーション戦略(前編)

次世代に向け地産地消型エネルギーシステムを構築

杉山 範子(すぎやま のりこ) 氏
杉山 範子(すぎやま のりこ) 氏
名古屋大学 大学院環境学研究科 持続的共発展教育研究センター 特任准教授
愛知教育大学総合理学コース卒業後、財団法人 日本気象協会勤務。7年間、テレビ愛知の気象キャスターを務める(気象予報士)。04年名城大学大学院理工学研究科環境創造学科修了(工学修士)、08年名古屋大学大学院環境学研究科社会環境学専攻修了(博士(環境学))。08年より同大学院環境学研究科助教。12年には半年間渡独し、ベルリン自由大学環境政策研究所の客員研究員として欧州の気候政策を調査した。その後、名古屋大学国際環境人材育成プログラムの特任准教授、大学院環境学研究科特任准教授を経て、16年4月より現職。地域気候政策・エネルギー政策の確立に向けた研究を行い、日本版「首長誓約」を提案している。

杉山範子氏(以下敬称略):名古屋大学などが提案する日本版「首長誓約」は、EU(欧州連合)で2008年から始まった「市長誓約(Covenant of Mayors)」をモデルにしています。市長誓約とは、例えばEUが掲げる2020年までのCO2(二酸化炭素)排出量削減目標である、マイナス20%を上回る削減を市長が誓約し、それを実現するための具体的なアクションプランを策定して取り組んでいくというものです。義務もペナルティもない制度ですが、開始してから爆発的に広がり、すでに6800を超える自治体が自主的に参加しています。その人口カバー率は、EU全体の約40%という状況です。2015年10月には、EUが掲げた2030年までにCO2排出量の40%削減と、気候変動の適応策に取り組むという新目標に合わせて、新たな枠組みが開始しました。

 市長誓約の成功事例として、イタリアのトリノ県トリノ市の取り組みがあります。トリノ市は、人口が90万人ほどですが、自動車などによる大気汚染物質やCO2排出の削減が課題となっていました。これまで建物ごとのボイラー室で石油を炊いて暖房や給湯に利用し、その煙を屋上から排出していましたが、それでは大気汚染物質が街中に溜まってしまいます。そこで、トリノ市では、個々の暖房システムではなくて、街全体で面的に地域冷房や熱供給するシステムの導入を計画しました。それまでは、隣国のフランスから原子力由来の電力を若干輸入していましたが、現在はそれもしていないということです。

 トリノ市内には、市が100%出資している欧州最大級のCHP(コージェネ)/DHC(地域冷暖房)施設があり、県下のCHP/DHCプラント容量は、合計で電気出力158万kWe、熱出力209万kWtで、6400万m3もの温水を供給しています。2022年には追加的に熱供給できるエリアを増やすことが都市計画にも盛り込まれていて、さらに将来的には、廃棄物焼却炉から出る熱も接続して供給する計画です。

 いくつかの欧州の事例を見ていく中で、やはりエネルギーの分野にしっかり切り込まなければ、CO2の大幅削減は難しいということが分かってきました。そこで、日本版の首長誓約では、大きく3つの目標を掲げています。1つめは、エネルギーの地産地消、2つめは温室効果ガスの大幅削減、3つめが気候変動などへの適応です。

柏木 孝夫(かしわぎ たかお)
柏木 孝夫(かしわぎ たかお)
東京工業大学 特命教授・名誉教授
コージェネ財団 理事長
1970年東京工業大学工学部卒業、79年博士号取得。80~81年米国商務省NBS招聘研究員。東京農工大学工学部教授、96年九州大学教授を併任。2007年東京工業大学大学院教授・先進エネルギー国際研究センター長、12年特命教授・名誉教授。総合資源エネルギー調査会 省エネ・新エネ分科会長(13年~)、経済産業省「スマートコミュニティ関連システムフォーラム」委員(09年~)、総合科学技術会議 重要課題専門調査会専門委員(13年~)、総務省「自治体主導の地域エネルギーシステム整備研究会」座長(14年~)ほか、政府の審議会・研究会等の委員を多数歴任。03年~スタンフォード大学国際諮問委員。日本機械学会フェロー、日本エネルギー学会会長(第21代)など。

 現行は、電力料金を電力会社に払いますので、それだけ地域の資産が流出します。一方、地域の電力小売事業者が再生可能エネルギーを買い上げて地域内に供給することで、地域経済が循環し、資産が地域内で残留または還流することが期待できると考えます。

 日本版の首長誓約については、2015年12月12日に豊田市内で誓約式を行い、西三河地域の岡崎市、豊田市、安城市、知立市、みよし市の5市が第1号として誓約を結びました。5市は協議会を設立して、フィージビリティスタディとアクションプラン策定を目指しているところです。また、今年8月には、長野県高山村も参加を予定しています。

柏木: 今回の電力自由化によって、新たに首長誓約を結びたいという地域電力事業者も出てくるのではないでしょうか。規制改革によって、流れが加速される印象はありますか。

杉山: 実際に日本国内でも、自治体による地域電力事業者がいくつか立ち上がってきています。そういったところからも日本版首長誓約に関する問い合わせをいただいています。

柏木: プロジェクトでは、コージェネが多用されるようですね。

杉山: エネルギー需要が大きく再生可能エネルギーの賦存量が少ない地域では、特にコージェネを導入するポテンシャルが高いと考えています。

柏木: 熱を制する者は、CO2削減、あるいはエネルギーシステム全体をも制する。こういう考え方でよろしいですか。

杉山: はい。熱は遠くまで運べませんので、地域内で消費すること、「地産地消」が重要ですね。

 
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経済産業省の総合資源エネルギー調査会基本政策分科会が取りまとめた「第5次エネルギー基本計画(案)」が公開され、当財団としてパブリックコメントを提出いたしました。その結果および「第5次エネルギー基本計画におけるコージェネの位置づけ」について、資料を取りまとめております。

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