
図1 オリンピック・パークのエネルギーネットワーク。Cofely UK資料より
エネルギー・センターは、オリンピック・パークに2か所ある。一つは、ストラトフォード・シティと呼ばれるショッピングセンターに6.2MWのコージェネレーション(熱電併給)システム、4MWの吸収式冷凍機、40MWのボイラーで構成されるエネルギー・センターと、3.1MWのコージェネ、4MWの吸収式冷凍機、3.5MWのバイオマスボイラー、40MWのボイラーで構成されるもうひとつのエネルギー・センターである。後者は木質ペレットのバイオマスボイラーがあり、再生可能エネルギーの導入が評価された。
当初、オリンピック・パークではCO2(二酸化炭素)排出量削減目標を44%と設定していた(*1)。ロンドン市は、かねてより2025年までに分散型エネルギーネットワークによるエネルギー供給を25%にする(*2)という目標を立て、積極的なネットワークづくりを目指しているものの、2013年にロンドン全体で275基のコージェネが電力3.5%、熱の1.8%、エネルギー全体の2.4%をカバーするに留まっていた(*3)。そのため、オリンピック・パークのような面的再開発事業はエネルギー事業のチャンスと捉えられ、積極的な導入を推進している。

図2 キングス・ヤード・エネルギーセンター。2016年3月筆者撮影
さらに、(1)個別建物が省エネビル、(2)全長18kmの熱導管(温熱、冷熱)とバイオマス、ガス・コージェネを用いた2つのエネルギー・センターの存在、(3)区域内のすべての建物が熱導管に接続し、CO2排出量削減効果を上げているという特徴がある。他の地域との大きな差は、上記(2)と(3)の実現であり、特に(2)は英国で最長の40年というコンセッション(公共施設等運営権)契約がオリンピック期間の開発計画と開発の許可を与えていたOlympic Delivery Authority(ODA)と17万m2のショッピングセンターを抱える Stratford City Development Ltd.、及び熱供給事業者であるCofely East London Energy Ltdとの間で結ばれている。
なかでも契約に「オリンピック・パーク内のすべての新規開発はエネルギーネットワークから熱を購入しなければならない」(*4)とされているのが大きな特徴である。CO2排出量削減目標達成のためには、より多くの建物が熱導管に接続することが必要であったこと、ブラウンフィールドの都市再生事業が長期にわたるため、エネルギー事業者Cofelyが投資した2つのエネルギー・センターと18kmに及ぶ熱導管の1.13億ポンドの回収を公共が支えなければならならなかったことから、40年という長期のコンセッション契約を行っている。
この長期契約と顧客が必ず確保できる仕組みは、エネルギーインフラ事業の安定化につながっているという(*5)。実際、Cofelyの他都市での熱供給契約は20年が多いこと(*6)、投資回収が通常15年で考えられていることからしても、大規模で長期にわたる高いリスクの事業は、直接的な助成のみならず市場の規制が大事な要素といえる。
*1 GLA, 2012, The London Sustainability Plan, p.18
*2 GLA, 2011, Delivering London’s Energy Future: The Mayor’s Climate Change Mitigation and Energy Strategy, p3.111
*3 GLA, 2015, The Mayor’s Climate Change Mitigation and Energy Strategy Annual Report 2013-14, p.15
*4 GLA(2011) OLSPG Energy Study, p.8
*5 2012年12月、13年11月Cofely East London Energy Ltd.へのヒアリング調査による。
*6 LLDC, Infrastructure List (Required by Regulation 2123 of CIL Regulation)