ただ、2度目標を達成するために必要なBECCSは膨大です。先ほど紹介したシナリオでは、最大時には1年間のCO2排出量と同じぐらいの量のBECCSが必要となっています。1.5度未満に抑えようとするなら、さらに多くの量のBECCSが求められます。気の遠くなるような話です。
現実に大量のCCSは可能でしょうか。現在、最も大きなCCSの貯蔵場所はオーストラリア北西部のバロー島にあります。ここでは年間400万トンのCO2を貯蔵できます。一方、世界では1日1億トン、1時間で約400万トンのCO2を排出しています。世界最大のCCSプロジェクトが1年間で貯留する量を世界の1時間のCO2排出量で埋めてしまうのです。
膨大な量のCCSを実行しようとすれば、巨大な面積の土地が必要です。温室効果ガスを実質ゼロにするためにBECCSに必要な新しい土地はインド一国分から米国一国分に及ぶという論文も出ています。地球上にそんな土地はありません。それでもBECCSを強行すれば、種の多様性や食料生産に悪影響が及びます。飢餓や栄養摂取にも負の影響が出るため、その対策コストが高くなってしまいます。
もう1つ、パリ協定の2度目標を理解する上で重要な話に「炭素予算」があります。温暖化による気温上昇を目標まで抑える場合に許容される累積CO2排出量を示すものです。
温室効果ガスのうち、メタンガスは12年ほどで吸収されます。しかしCO2は100年そのままで残ります。長いものは500年、1000年、1万年と残ります。17年までに世界でCO2は累計2200ギガトン排出されました。これにより気温は1度上昇しています。ここから、1.5度目標を50%の確率で実現するなら、許容されるCO2排出量は580ギガトン。現在、年間で35ギガトン排出していますから、あと17年ほどでその許容量を満たしてしまう計算です。66%の確率で実現するならば、許容されるCO2排出量は420ギガトンに減ってしまいます。2度目標の場合でも、許されるCO2排出量は1170~1500ギガトンしかありません。
先日、『フィナンシャルタイムズ』は炭素予算で計算すると、1.5度目標を実現するには、現在埋蔵されている石炭・石油・天然ガスのうち16%、2度目標でも40%しか使えないという記事を掲載していました。
現在、中国を中心に世界では新しい石炭火力発電所建設の計画が進んでいます。それらのCO2排出量は188ギガトン。既存の石炭火力が予定通りの年数を稼働した場合に排出するCO2量は658ギガトンですから、合計すると846ギガトン。それだけで1.5度以内に抑えるために許されるCO2排出量(420~580ギガトン)を超えてしまいます。
■ 化石燃料起源のCO2はGHGの65%(日本は87%、2014年度)

2017年のCO2排出量は42Gt(1.5SR SPM16)、2010年は37Gt