スペシャルリポート

科学技術・イノベーションの役割
“勝ち筋”技術を見極め産学官連携を

イノベーション創出の変化に遅れを取った日本

和泉洋人(いずみ ひろと) 氏

 今、イノベーションの創出パターンには変化が生じています。

 1900~1949年が「発明牽引型」だとすれば、日本が高度成長を謳歌した1950~1999年は「普及・展開型」のイノベーション創出でした。2000年代に入ると、全く新しい視点で発想する「21世紀型」と呼ぶべきイノベーション創出パターンになりました。

 日本は既存の技術をベースに改善を重ねる「普及・展開型」のイノベーション創出を得意としてきました。日本が世界で大きなシェアを獲得してきた内視鏡やインスタントラーメン、漫画・アニメ、新幹線、「ウォークマン」、「ウォシュレット」といった製品は「普及・展開型」のイノベーションから生まれたものです。

 それを可能にしたのが、日本型雇用の中で勤勉に働く従業員の存在でした。マニュアルに従い、やるべきことをやり遂げるよう、画一的な人材を育成したことが成果に結びつきました。

 一方、「21世紀型」のイノベーションは製品・サービスと技術の結合によって、全く予想もつかなかった新たな価値を創出します。「スタートアップ」という言葉に象徴されるように、デジタルの力も借りて極めてスピーディーに市場拡大や社会実装を実現します。言ってみれば不連続なイノベーションです。フィンテックやプラットフォームが瞬く間に浸透し、アマゾンやウーバーのような企業が台頭してきたのはその典型例といえます。

 日本が得意とした既存技術の改善型のイノベーションは限界に突き当たっています。既存の延長線上でコツコツとイノベーションを創出するやり方に慣れきっていた日本は今、世界の流れから遅れを取っています。企業価値10億ドル以上の大型未上場企業「ユニコーン」の数を見ても、2019年時点で米国が200社以上、中国が100社以上あるのに対し、日本はわずか3社にとどまります。

 技術開発に成功しても、ビジネス化で負けるケースも目立ちます。今、様々な分野で使われる3Dプリンターの技術はもともと日本で開発されたものでした。全く注目されず埋没してしまった技術を米国メーカーが実用化し今日の隆盛にいたります。かつて日本メーカーが高いシェアを誇ったリチウムイオン電池も近年は中国や韓国勢との価格競争で苦戦するようになりました。10~20年前、NECは量子コンピューター開発において世界の最先端を走っていましたが、判断の遅れで「世界初の実用化」を逃しました。

 企業において新技術の目利きがきかず、基礎的研究に資金を投じイノベーションを生み出す仕組みが機能しなくなりました。また、企業をスピンアウトしてでも研究開発をやり遂げようとするチャレンジ精神にあふれる人材が減ってしまいました。

 日本の研究力の低下は「知の基盤」である大学の凋落にも表れています。海外の大学は経営と研究開発・教育を分業化し、事業規模を拡大することでより大きな研究開発・教育を実現しようと動いています。各大学の収入を見ると、2005年に比べオックスフォード大学やケンブリッジ大学は2倍、ハーバード大学やスタンフォード大学は1.5倍に達しているのに対し、東京大学、京都大学、東北大学はほぼ横ばいのままです。ハーバード大学は4.5兆円、イエール大学は3.3兆円もの大学基金を運用し、その果実を研究開発分野に還元しています。日本はトップの慶応義塾大学でも730億円。東大は150億円にとどまります。

 日本では大学における若手研究者の安定的ポストも減少しています。基礎的研究から積み上げ、花を開かせることを考えると、5年間といった有期で成果を上げなくてはならない環境では、イノベーションを生み出すのは難しいでしょう。将来のポストや研究開発活動への不安から博士課程への進学率も低下しています。質の高い論文数のランキングでも、この10年ほど日本は順位を落とし続けています。

 
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