こうした状況の中で、日本は科学技術をどう再興していくべきでしょうか。
岸田文雄首相は2021年10月の所信表明演説で、科学技術立国の実現と経済安全保障を柱に据えた政策を遂行することを表明しました。
科学技術立国の実現に向けて取り組むべき戦略は3つあります。
第1に「知の基盤強化と人材育成強化」です。岸田首相の所信表明演説では、年度内に10兆円規模の大学ファンドを設置することを盛り込んでいます。これは大きな成果です。ここから科学技術・イノベーションの源泉を創出することが求められます。
第2が「先端科学技術の戦略的な推進」です。主要な技術分野にはAI、量子、バイオ、マテリアル、グリーンなどが挙げられますが、すべてを手掛けるのではなく、強いところを見極めてテコ入れすることが必要です。つまり勝ち筋の技術を育てるのです。
第3は科学技術を支えるデジタル研究インフラとスタートアップ支援、国際頭脳循環の強化による「イノベーション・エコシステムの形成」です。その中心となるのは大学です。経営と学業・研究を分業した体制の中で、民間企業からの資金循環や海外との人材交流が可能な仕組みをつくり、新たなイノベーション、新たなスタートアップ、新たな産業を生み出していくことが求められます。
経済安全保障の推進には自律性の向上、優位性・不可欠性の確保が重要です。産学官が連携し、また米国や欧州など価値観を共有できる国々と連携し、政府は司令塔となって各種政策を遂行していくことが必要になります。
半導体で、その1つの先行例があります。材料や製造装置で高シェアを誇る日本ですが、最終製品を製造する場所が米国や韓国、台湾となると、現地で互いにやりとりしながら磨き込むことが求められ、製造装置や素材産業も空洞化してしまうことが懸念されます。そこで政府は世界的な半導体メーカーの台湾TSMCの熊本県への工場進出を実現するため、3000億円を支援することを決めました。協業しながら日本の技術を磨く狙いです。
また、2050年カーボンニュートラル実現に向け、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)に2兆円の「グリーンイノベーション基金」を創設しました。14分野でチャレンジングな研究開発を進めようとしています。
科学技術・イノベーションの分野での世界的競争は熾烈を極めています。若干、地盤沈下を起こした日本はもうダメなのか。そんなことはありません。日本の勝ち筋を見極め、産学官が連携し戦略的に政策を遂行することで、科学技術立国・日本の再興は可能なのです。

■ 科学技術立国の実現に向けた3つの戦略