日本を豊かにしてきた科学技術・イノベーションとそれを伝える人材に、今明らかに変調が生じています。こうした現状の中、日本は何とか〝勝ち筋〟を見出さなくてはなりません。
今、「経済安全保障」という言葉が注目されています。安全保障を確保するには、外交や防衛に加え、経済分野で自律性、不可欠性を確保することが極めて重要ということです。米国や中国は技術開発を安全保障の最大の柱と位置づけ、政策を打ち出しています。
米バイデン政権は科学技術関連投資をGDPの2%まで引き上げます。半導体、人工知能(AI)、次世代通信などの分野に5年間で総額2500億ドルの国家予算を投じます。中国も科学技術の「自立自強」を国家発展戦略の柱と据え、2025年までの5カ年計画で研究開発費を年7%以上増やすと表明しています。
各国が凌ぎを削る分野の1つが量子技術です。量子コンピューティングのほか、量子暗号通信、量子センシングが注目されています。我が国は量子暗号、量子センシングの分野では世界トップの研究レベルにあります。産業界を巻き込み、投資を拡大することが必要です。
AIは「国家安全保障」「民主主義保全」など社会の根本機能維持のための必須技術に変わりつつあります。米国はAI支援戦争を想定し予算を強化しようとしています。中国もAIを活用した「智能化戦争」への取り組みを開始しています。日本は遅れを取ってはいるものの、AI導入の潜在的分野は広範囲にわたります。勝負はこれからです。
もう1つ、あきらめずに頑張りたい技術が核融合です。燃料1gで石油8t分のエネルギーを生み出す高効率なエネルギー源である上、燃料の元栓を閉めると反応が自動停止するなど安全です。高レベル放射性廃棄物もなく環境に優しい利点もあります。燃料のリチウムや重水素は海中から取ることが可能で、四方を海で囲まれた日本にとって極めて有望です。実現には超伝導、AI、量子コンピューターなど最先端技術を磨くことが必要です。
20世紀から21世紀になり、デジタルトランスフォーメーションが進んだことで産業構造も国民生活も大きく変化しています。20世紀の産業を支えていたのは石油でしたが今はデータです。産業のコメと言われたのは鉄鋼でしたが、今は半導体です。かつての直線型だった経済は今、循環型が求められます。これらの象徴として、日本の代表産業といわれた自動車はガソリン車からEVへとシフトしています。
20世紀には日本は米国、欧州とともに半導体のメジャープレーヤーでした。今は米国や台湾、韓国が中心です。デジタル化が進んだ今、コンピューターやスマートフォンだけでなく、生活の中で使うあらゆる製品に半導体が入っています。半導体の確保は経済安全保障と直結しています。
残念ながら最終製品としての半導体産業で日本は凋落してしまいました。しかし、材料や製造装置では依然として日本が大きなシェアを握っています。例えば塗布装置では約9割、シリコンウエハーは約6割のシェアを占めます。

■ 産業構造の変化 : 変わる産業の基盤