今、水素ステーションでの水素の販売価格は1立方メートル100円ほどです。FCVで利用した場合、セダンタイプのハイブリッド車の燃費と比較してトントンというところです。50円ほどになれば、商用車が使う軽油と勝負ができます。政府は2030年に30円まで下げることを目標としています。2020年代後半に50円を切る水準になれば、社会的責任を負う企業がFCVを使う動きが加速するはずです。
1立方メートル30円以下になると、いくらか政府の支援もいただくことで、天然ガスと勝負できるようになります。天然ガスを利用する化学工業では18円ほど、石炭を利用する鉄鋼業では8円ほどまで水素価格を下げる必要がありますが、グリーン調達の観点から「CO2フリーで作った鉄ならば高くても買う」といった動きも出てきています。環境価値を組み入れる制度とするなど、設計次第で状況が変わる可能性もあります。
再生可能エネルギー由来の電気でつくった水素は「グリーン水素」、化石燃料由来の電気でつくりCCUSを組み合わせた水素は「ブルー水素」と呼ばれます。ブルー水素が先に普及しグリーン水素へと移行すると考えられます。しかし、脱炭素化の波が広がり、化石資源に投資しづらい状況が生まれていること、ウクライナ危機でLNGが取り合いになっていることなどから、ブルー水素の価格は下がる要因が見当たりません。一方、グリーン水素は技術開発が進めば価格が下がります。ブルー水素よりもグリーン水素の方が早く広がることも考えられます。
日本のエネルギー自給率を高めエネルギー安全保障を確立する上でも、水素には高いポテンシャルがあります。
北海道や東北の日本海側、九州などでは再エネが余り始めています。九州本土では、日々使う電力量が800万~1400万kWなのに対し、再エネ電力は接続検討申し込みまで含めると計3750万kWにも及びます。
九州管内の電源構成を見ると、2019年度には再エネ由来の発電量が全体の23%、原子力が35%で、合計58%に達しました。第6次エネルギー基本計画で、2030年の目標として再エネと原子力合わせ56~60%という数字が掲げられましたが、九州では10年前倒しで達成しています。天然ガス火力での水素利用、石炭火力での水素キャリアのアンモニア利用による発電で、電力の脱炭素化が可能になります。
政府は今年5月に成立した「改正エネルギー供給構造高度化法」の中に、「水素・アンモニア等の脱炭素燃料の利用促進」を盛り込みました。法律上、初めて水素をエネルギーとして位置づけた、我々にとっては非常に印象深い一文です。水素やアンモニアの利用を拡大するには、国内での製造を促進するとともに、製造・液化・輸送・貯蔵などの国際バリューチェーンを構築することが必要です。
インフラ投資に対しては、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の出資や政府の債務保証が可能になりました。予算の財源として、グリーントランスフォーメーション(GX)ボンドを発行するなど、官が積極的に役割を果たすことで、民も継続的に投資がしやすい環境が整います。
支援制度の構築も重要です。ドイツやイギリスは、水素価格と既存の化石燃料との価格差を国が補填して、官民で事業リスクをシェアする制度などを考えています。ドイツは固定買い取りに近い方式を、イギリスは変動する方式を検討しています。固定買い取りは投資する側には安心ですが、再エネで導入した固定価格買い取り制度(FIT)には批判もあり、国民理解を得ることに課題があります。
2030年に水素・アンモニアで電源構成1%という目標達成のために、小委員会では製造源や調達先を限定せず支援することを検討しています。用途も原則制限せず、電力に限らず多くの事業者に使っていただくことでコストを低減しようとしています。CO2排出量の閾値を設定し、グリーンなものほど厚めに支援することも議論しています。今、政府も経済界もGXへの投資には積極的です。こうした後押しを受けながら、脱炭素燃料を拡大していこうと考えています。
水素は脱炭素、エネルギー安定供給、エネルギー安全保障など、今の日本が抱える課題解決に貢献する重要な物質です。ただし、その水素を普及させ水素社会を実現するには、産業・社会にパラダイムシフトを起こすことが必要です。産官学が連携し、長期投資することが求められます。
脱炭素のキーテクノロジーである水素をどう社会に広げていくか。皆さんとともに考え、カーボンニュートラルの実現に貢献したいと願っています。
