中には、カーボンプライシングを課されても、すぐにはCO2を削減できない業種もあります。そういう業種の企業には、前倒しで研究開発を進めてもらい、CO2を削減する新しい技術を獲得してもらう。その技術を武器に戦っているところへカーボンプライシングを課すというのが望ましい在り方です。そこで重要なのが時間軸です。企業が先行投資によって研究開発を進める中では、成功するものもあれば失敗するものもあるでしょう。NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)などのプロジェクトで、しっかり進捗管理をしてもらいながら幾つかのポートフォリオの中で技術を育て、その後、段階的にカーボンプライシングを強化していくという制度設計が重要です。

排出量取引制度では、考慮事項として「足下で削減効果が発現しない研究開発投資の実施状況」を挙げています。これは時間軸が重要であるという認識の現れです。「カーボンリーケージリスク」にも触れています。どんなにCO2を削減しても、雇用の減少などリーケージ(漏れ)につながるのならば本来の趣旨に反します。リーケージにさらされやすい産業への配慮は不可欠です。
日本のGXは強制するより、CO2を見える化することで自主的な行動変容を促そうという思想があり、産官学が一体となった「GXリーグ」が設立されています。GXリーグの行き着く先に排出量取引制度があります。企業の成長に取り込んでもらえるような排出量取引制度の在り方を探るというのが、制度設計の基本理念になっています。
米国はトランプ政権発足後、「インフレ抑制法(IRA)」を見直すなど、環境・エネルギー政策を大きく方針転換しています。一方、民間レベルでの脱炭素投資はあまり止まっていません。
わが国は費用対効果を改めて精査しつつも、GXの取り組みをしっかり進めることが重要です。トランプ政権で時間的余裕が生まれたことで、アジアで脱炭素をリードできるような姿をつくり、企業の成長、わが国の成長につなげる良いチャンスが生まれたと捉えるべきです。思考停止に陥らないことが何より肝要です。
米国の政策が経済重視に傾きつつあることを受け、「日本も政策を変えるべき」という意見が出てくるかもしれません。しかし、日本の政策を振り返れば、欧米と同じやり方で作ってきたわけではなく、常に経済のことを念頭に置きながら議論を進めてきたという歴史があります。逆に欧米の政策が、日本に追いついてきたと言えるのではないかと思います。
一方、欧米のやり方とあまり違いすぎると、コンパティビリティ(互換性)がなくなってしまうという問題があります。最低限、海外の排出量取引制度とコンパティビリティがあるようバランスをとることが求められます。