スペシャルリポート

わが国における
カーボンプライシングの視点

排出量取引の海外展開が産業構造の再編につながる

 これまで、カーボンプライシングは課税、負担と捉えられてきました。CO2を「迷惑財」と位置付け、公害のように「罰則を与える」という考え方です。この考え方は相当変わりつつあります。カーボンプライシングによって、CO2削減に価値を生み出すことが、新たなビジネスや産業の芽につながることが見えてきたのです。

 典型がCCSです。こうした事業は、カーボンに価値付けされて初めて事業性が生まれます。CO2の価格付けは企業の行動変容を促し、産業構造の転換やイノベーションの活性化という、これまでの日本経済の課題を解決する糸口にもなります。

 そのためにも、GXを国内でのCO2削減だけの話にせず、海外展開につなげることが重要です。日本のCO2排出量は世界全体のわずか3%程度です。頑張って1割減らしても、世界の0.3%しか減りません。日本が削減することはもちろん大切ですが、世界を見渡し世界全体のカーボンプライシングを達成するために、「何が費用対効果の高い施策なのか」、「何が最も世界全体のカーボンニュートラルに貢献できるのか」を問うべきです。

 排出量取引制度の対象は国内のスコープ1と限定的ですが、それを起点に海外に展開し、投資の拡大、イノベーションの創出につなげることが重要です。それが究極的には、遅々として進まないわが国の産業構造の再編、あるいは新しい産業の創造につながるのだと思います。

 既にコンビナートやデータセンターを中心に、議論が始まっています。産業立地をどう転換していくか、地方創生をどう実現するかという話へと発展させる必要があります。

 大規模投資が必要となる産業GXには、一定の事業性の見通しが必須です。将来の不確実性が高すぎれば、企業は投資に踏み出せません。そこで排出量取引制度においては、投資に予見性を持たせるという意味で上下限価格を設定することになっています。

 産業GXを持続的な成長につなげるためには、市場創造も重要です。政府には、市場創造の役割が求められます。

 2050年カーボンニュートラルに向かう過程では、これまで享受してきた生活の利便性が低下したり、負担が増えたりすることが生じ得ます。国民にそれを受け入れる覚悟はできているでしょうか。企業がGXに投資しても、その分のコストを国民が「払いたくない」となれば回収できなくなってしまいます。それでは投資は進みません。

 永続的ではないとしても、呼び水としての政府の役割は大きくなります。公共調達に脱炭素製品の購入を要件づける方法もあるでしょう。GXリーグの中で率先して脱炭素購買を推進した企業に特別な支援を行うといった方法も考えられます。

 重要なのは、どのように日本企業の事業を拡大し、成長を実現するかという視点です。GXでの先導的な取り組みを、企業規模の拡大や経済成長につなげるしたたかさが求められます。あくまでも成長のためであるという前提の下で、わが国の経済状況や国民生活状況を見ながら、脱炭素を目指すべきです。

 
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