スペシャルリポート

わが国における
カーボンプライシングの視点

大切なのは国に富を残すこと、制度をツールとして活用

 排出量取引制度に求められる視点を幾つか指摘したいと思います。

 1つは技術中立性です。排出量取引制度はスコープ1を対象としています。スコープ1の削減は、自家発等の直接燃焼を切り離すことで可能になりえます。実際の排出量削減につながらず、数字上の技巧にすぎないこうした行為を優遇しない技術中立性が重要です。

 次に、先発者が不利にならない制度とすることが必要です。早めにイノベーション投資や産業転換・高度化を通じたGXに取り組む企業が優位に評価される制度であるべきです。

 規模の中立性も必要です。当初は年間10万t以上のCO2排出企業を対象としますが、事業規模拡大を妨げず、中小企業も取り組めるような配慮が求められます。

 最後に、当面の課題を3点挙げたいと思います。

 1点目が、直接排出者に対して与える私的インセンティブ(スコープ1)と国全体の脱炭素化に対する取り組みの方向性をどうつなぐかです。例えば、海外で減らしたものをどう日本に取り込むのか。公的インセンティブと私的インセンティブのベクトルを合わせることが制度設計において重要な点の1つと言えます。

 2つ目は持続性の確保です。GX需要を創出する呼び水として、当初、政府調達やGXリーグ参加企業による取り組みを行うのは有効ではありますが、持続可能ではありません。需要の創出は、ある意味国民運動に近いものがあります。消費者に近い企業が、どういうことを訴えながら製品等を売るのかを横断的に考えていくことが重要です。

 3つ目に、既に話した通り、排出量取引制度の創設に合わせて、暗示的な取り組みを明示的な取り組みに統合することです。わが国が経済活動上、不利に扱われないよう、既存法制度の政策趣旨や効果は残しつつ、排出削減については排出量取引に一本化しなくてはなりません。

 2025年2月、政府は2035年度に2013年度比60%、2040年度に同73%のCO2削減を目指すという新たな日本のNDC(国が決定する貢献)を掲げました。2050年ネットゼロまでの経路を「直線」としたのです。この経路に決まるまでの議論には、当初は緩やかに排出削減し、技術の革新によって将来的に削減を加速する「上に凸」の経路や「下に凸」の経路も議論されていました。

 「NDCに沿うようにCO2を削減しなくては」という考え方では身が小さくなるばかりです。世界は刻々と変化します。経済活動におけるフリーハンドをしっかり持ち、どう企業規模を大きくするか、経済成長につなげるかという視点でCO2削減の努力をする姿勢を持つことが重要です。

 最終的に目指すべき姿は「炭素中立社会」と言えます。基本的に排出したものと同量の吸収系クレジットで打ち消し合う世界です。ただ、もしかしたら、こういう社会が訪れる前に、「温暖化の原因はCO2ではなかった」という話が出てくるかもしれません。そうした新しい科学的知見も受け入れる準備をしておくことが重要です。

 大切なのは、国益に資する取り組みによって、わが国に富を残すということです。その富は次世代に引き継がれます。CO2削減も経済力も次世代につながるのです。

 カーボンプライシングは企業が活動していく上で制約条件ではなく、ツールになるものです。コージェネと同じようにツールとして活用し、経済成長につなげてほしいと思います。

わが国におけるカーボンプライシングの視点

 
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