スペシャルリポート

アフォーダブルで持続可能な低炭素エネルギーシステム
全ての選択肢を削らず脱炭素技術の開発を

点でなく面で活用するシステム設計を

柏木:次に、我が国の脱炭素戦略について議論をしたいと思います。どのような技術開発、制度設計をしていくことが必要になるでしょうか。

日下部:米国は原子力やCCS、中国は蓄電池や風力・太陽光に集中しています。100点満点の完璧な脱炭素技術がまだ見えていない日本が採るべき戦略の基本は、「全ての脱炭素戦略の選択肢を捨てない」ことだと思います。

 GXも、そのバックにあるDXも、政策メニューにはあらゆる選択肢があり、巨額の支援や税制の恩恵を講じています。総花的に見えますが、技術開発の熟度が上がったところでリソースをシフトするという、意外としたたかな戦略になっていると私は思います。

 低炭素や脱炭素は1つの技術で成り立つものではなく、あらゆる技術の束で取り組むべきものです。日本は産業の幅も技術の裾野も広い極めて稀な国です。そのインフラを活用し、今はあえて戦略として総花的にやるべき時期だと思います。

 政府はガイドラインやプライシング、税制、予算などで、日本企業が持つ技術に光を当てる営みを続けてきました。昔なら、補正予算で積み上げていたところですが、今、経済産業省の後輩たちはGX経済移行債で広くファイナンスしたり、研究開発税制で重点分野を40%控除したりする骨太な取り組みを始めています。これらがうまく回れば、いずれ必ず花開くはずです。

柏木:私も同じ意見を持っています。エネルギーを輸入に頼り、再生可能エネルギーにもあまり恵まれない日本は、総花的にいろいろなことをやらざるを得ません。大規模電源と分散型電源も二者択一ではありません。選択肢を削らず、それぞれの時期のベストミックスを求めていくことが重要です。岩城さんは、技術の視点から日本の脱炭素戦略についてどのようにお考えですか。

岩城 智香子(いわき ちかこ)氏
岩城 智香子(いわき ちかこ)氏
東芝 総合研究所 首席技監
一般社団法人日本機械学会 会長 博士(工学)
専門は熱流動、混相流、原子力安全工学。1989年3月に筑波大学を卒業後、同年4月に東芝へ入社。以来、原子力発電所の性能向上・安全性向上に関わる研究開発や新型炉の開発に携わる。2003年に博士号を取得。現在は、革新炉の研究開発に加え、カーボンニュートラルの実現に貢献するエネルギー貯蔵技術の開発にも注力している。2025年より東芝首席技監。東京科学大学特任教授。学会活動としては、日本機械学会会長を務め、これまでに日本混相流学会会長、日本原子力学会副会長などを歴任。2014年より日本学術会議連携会員。

岩城:おっしゃる通り、様々な技術を総花的に手掛けることが重要だと思います。大規模電源と分散型電源の二者択一ではないという点にも賛同します。大規模電源は、安定供給や脱炭素化効果の点で今後も重要で、再エネが増えるに当たって送配電網の整備も不可欠です。国が戦略を描き遂行することが求められます。

 一方で、分散型電源を活用して地域ごとに脱炭素へ向けての個別戦略を構築することも大事です。欧州などでは、複数の産業が連携して電気・熱などのエネルギーを地域の中で効率的かつ最適に利用する「セクターカップリング」が既に進んでいます。このように広い領域でのエネルギーシステムの最適化を考えれば、ヒートポンプや蓄熱など、日本の優れた技術の活用の可能性も広がります。技術を点でなく面で活用するシステム設計を進める。そういう視点で、脱炭素戦略を構築していくことが重要ではないかと思います。

 
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