スペシャルリポート

グリーンイノベーションによる経済成長
官民連携しスマートエネルギー社会実現を

イノベーティブな石炭火力を日本が先導すべき

柏木:金融市場でメーンストリームになりつつあるESG投資について見ると、世界全体では既に3000兆円ほどの規模があるのに対し、日本はまだ200兆円にとどまっています。その差をどうとらえていますか。

原田:パリ協定の発効後、金融機関にも、このムーブメントについて行かなくては取引先、投資先だけでなく、自分たちの株価にも響いてしまうという危機意識が生まれました。ESG投資について、確かに日本は少し出遅れた感がありましたが、19年のESG投資額は16年に比べて34%増え、世界で3番目にESG投資額が多い国になっています。その大きなきっかけは年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)がESG投資に舵を切ったこと。世界の年金の中でも発言力の大きい機関で、日本の他の機関投資家も追随しています。

赤石:私も世界中でグリーンファイナンスが根本から変わったと認識しています。例はいくつもあります。中東では原子力発電システム何基分もの投資が太陽光に投入されています。中国でも電気自動車の普及のためにものすごい額のお金が流れています。

 資源エネルギー庁は国際資源戦略の一環で石油、石炭、天然ガスに何兆円もの巨額のお金を投じています。私は同じことをグリーンの領域でやるべきだと提唱しています。オーストラリアや中東にはふんだんに太陽光があります。それを使って天然ガスを水素化し、日本に持ってくればいい。これは今年のG20でも大きなテーマになると思います。

柏木孝夫(かしわぎ たかお) コージェネ財団 理事長 東京工業大学 特命教授/名誉教授
柏木孝夫(かしわぎ たかお)
コージェネ財団 理事長
東京工業大学 特命教授/名誉教授
1946年東京都生まれ。70年東京工業大学工学部生産機械工学科卒。79年博士号取得。80~81年米商務省NBS招聘研究員、88年東京農工大学工学部教授などを経て2007年東京工業大学大学院教授に就任。12年東京工業大学特命教授に。専門はエネルギー・環境システム。03年日本エネルギー学会学会賞(学術部門)、08年文部科学大臣表彰科学技術賞(研究部門)など受賞多数。経済産業省総合資源エネルギー調査会新エネルギー部会長、同調査会総合部会委員等でも活躍。18年より、内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期エネルギー・環境分野プログラムディレクターに就任。エネルギー・環境分野で最も権威のある国際賞「The Georg Alefeld Memorial Award」をアジアで初受賞。著書に『スマート革命』『エネルギー革命』『コージェネ革命』『超スマートエネルギー社会5.0』など。

柏木:再生可能エネルギーを主力電源化するということは、それぐらい大きな視野で世界的にネットワークをつくることが必要ということですね。一方、CO2を大量に排出する石炭火力などは、ESG投資でははねられてしまいます。ただ、安価に電気を供給できる石炭火力発電所はアジアなど途上国での需要が依然多く、今も世界の電源構成の40%を占めています。

 石炭火力の輸出や援助を手掛ける日本は国際的な批判にさらされることもありますが、途上国にも経済成長する権利はあります。CO2排出量の少ない高効率な石炭火力発電にCCS(CO2回収・貯留)やCCU(CO2回収・活用)をセットするというイノベーティブな石炭火力発電を日本が先導すればいいのではないかと思いますが、いかがですか。

赤石:おっしゃる通りです。日本でも東日本大震災後、原子力発電所が停止したことを受け、一部の石炭火力発電所が運転を再開しました。これは、「どうしようもない危機的状況にあった」からです。同じように今、危機的状況に置かれているのが途上国。「石炭火力は全部やめろ」というのは乱暴だと思います。

 ただ、ビヨンドゼロを打ち出している日本にはCO2の排出を抑える責任があります。CO2を回収し、化学品や燃料、鉱物などの製品に再利用する「カーボンリサイクル」やCCSには本格的に取り組まなくてはなりません。昨年プロジェクトを立ち上げ、CO2を大気から直接回収する「ダイレクト・エア・キャプチャー」の実験にも挑戦しています。こうした技術開発を積極的に推進することが日本の責務だと思います。

柏木:石炭は値段がつかず、輸出できない国も数多くあります。日本の技術でそれらの石炭を水素製造の原材料として活用すれば、燃料電池車の燃料や発電に活用できる。化学製品の原料にもなります。化学工場を併設するというソリューションで経済と環境の好循環が実現できるように思います。

原田:日本政策投資銀行は石炭火力に関して、統合報告書の中では「環境負荷低減の観点から発電効率などを慎重に検証の上で取り組んでいく」と記しています。既に計画されている石炭火力については、民間と協調しながら取り組んでいるものもあります。今、お話が出ていたように、イノベーションによって外部にCO2を排出しない石炭火力等の新しい技術開発に期待しています。

 
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