スペシャルリポート

GX関連新法を見据えた我が国のエネルギー選択
多様な取り組みでトランジション期を乗り越えよ

水素への価格差支援で「正の循環」が期待できる

柿原 アツ子(かきはら あつこ) 氏
柿原 アツ子(かきはら あつこ) 氏
川崎重工業取締役(監査等委員)
1962年生まれ。1985年東京外国語大学外国語学部卒業。同年川崎重工業入社。2009年慶応大学大学院経営管理課(慶応ビジネススクール)卒業。2013年CSR推進本部CSR部長、2017年理事CSR部長、マーケティング本部市場調査部長兼海外一部長などを経て2020年執行役員サステナビリティ推進本部長に就任。2022年マーケティング本部長、2023年マーケティング・渉外本部長を歴任。2024年4月社長特命事項担当に。6月より現職。

柏木:水素の供給コストは現在100円/m3ほどです。大規模化して80円/m3ほどまで下げたとしても、現在、主に使われる天然ガスとは60円/m3ほどの値差があります。それを補填するのが価格差支援ですが、省令ではどのようなことを定めるのでしょうか。

髙原:例えば、どういう水素に価格差支援するのかという問題があります。価格差支援に投じる金額は15年間で3兆円に及びますが、供給される水素すべてを支援することはできないので、ファーストムーバーが供給する、先行的に取り組むことに意義がある水素に絞り、どの程度クリーンであるべきかといったことを決めていきます。

柿原:価格差支援があると、ユーザー側は様々な選択肢の中から水素を選びやすくなります。需要の創出、拡大につながるので供給側も大規模化への投資がしやすくなります。需要の創出、規模の拡大、コストの低下、さらなる需要の拡大、規模の拡大、コストの低下…という「正の循環」が期待できます。我々はファーストムーバーとして動き始めることが必要だと考えています。

柏木:新法成立でGX関連のビジネスは進展していくでしょうか。日本は「技術では勝つがビジネスモデルで負ける」ということが起きがちです。水素に関しても、家庭用燃料電池「エネファーム」や燃料電池自動車「MIRAI」など、先進的な技術を使った製品をいち早く生み出しています。ビジネスモデルで負けないよう、産官学民で一体化した流れをつくることが必要です。

 例えば、ドイツはアフリカ各国と連携し、再生可能エネルギー由来のグリーン水素を生産・輸入するプロジェクトを推進しています。日本もそういうことを考える必要があるのではないでしょうか。

髙原:1つ言えるのは、それぞれの国が、それぞれのアプローチで、カーボンニュートラルという課題に取り組んでいるということです。例えば、米国の「インフレ抑制法」は、一定要件に基づいてクリーン水素の製造やCCSを実施すると、税額控除を受けられるという内容を盛り込んでいます。

 一方、欧州は規制に軸足を置いて取り組みを進めています。日本の法律は助成型と規制型の両方を取り入れたハイブリッド型と言えるでしょう。それぞれの国で道行きが異なり、一様に比べることはできないと感じています。その意味で、私はドイツの取り組みに関しても、「アフリカでグリーン水素のうまいビジネスモデルを作り上げている」とは思いません。どの国も水素社会の黎明期に試行錯誤をしている最中であり、まだ確固としたビジネスモデルを確立してはいないと思います。

 CCSに関していえば、日本では現在、政府が9件の「先進的CCS事業」を支援しています。ビジネスモデル構築の1つ前の段階ですが、参画する企業が経験値を積み、可視化することを健全に行っています。こうした先駆的なプロジェクトへの企業の挑戦なしに、一足飛びにビジネスモデルが出来上がることはありません。JOGMECも一緒にこうした事業をうまく推進していきたいと思っています。

柿原:私たちも各国のビジネスの状況を勉強してきましたが、髙原さんがお話しになったように、本当にそれぞれやり方が違います。日本の場合は価格差支援が盛り込まれ、消費マインドを促進するという意味で、非常に効果が期待できる取り組みだと思っています。我々、製造業もやる気が出てきます。

 水素サプライチェーンの各段階において、世界に先行する技術を持つ企業は、日本に数多くあります。こうした高い技術を消費マインドが上がったところでビジネスにつなげることができれば、世界の脱炭素に貢献しつつ、日本の産業力を強化できると常々思っています。

 
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