柏木:褐炭は水分や不純物が多く低品位なためこれまであまり利用されず、ほとんど値段はついていませんでした。川崎重工業はいち早く日本政府やオーストラリア政府に働きかけてその褐炭を手に入れ、ガス化・液化した水素を日本に持ってくる計画を立てましたね。

我々がこれから手掛けるのはブルー水素です。褐炭から水素を作る際に排出するCO2は、オーストラリアの安定した海底でCCSを行います。(金花芳則 氏)
金花:オーストラリア・ビクトリア州のラトローブバレーにある炭田の褐炭から水素を作ると、日本の総エネルギーの240年分ほどになります。褐炭をガス化するのは電源開発。プラントも既にできています。我々はそれを港に運び、液化して船で運搬し、神戸で陸揚げして発電することに挑戦します。「作る」「運ぶ・貯める」「使う」という一気通貫の水素サプライチェーンを構築します。
柏木:水素にも様々な種類があります。化石燃料から生成しCO2を排出するとグレー水素、それにCCUSを組み合わせるとブルー水素、再生可能エネルギーから生成するとグリーン水素、原子力発電で生成するとパープル/ピンク水素などと呼ばれますね。
金花:我々がこれから手掛けるのはブルー水素です。褐炭から水素を作る際に排出するCO2は、オーストラリアの安定した海底でCCSを行います。オーストラリアの企業と太陽光発電でグリーン水素を生成する計画のフィージビリティスタディも進めています。
また、カーボンニュートラルに向け、 新たな実証試験も開始しています。関西電力の舞鶴発電所に設置した石炭火力発電所に当社のCO2吸着システムの試験設備を建設し、1日40tのCO2を分離・回収するものです。当社は日本で初めて潜水艦を作った会社。今回のシステムには潜水艦で乗務員が排出したCO2を吸着する技術を活用します。
ここで分離・回収したCO2を使いメタネーションを実施する計画を立てています。

グリーンボンドやESG投資によって資金を導入した企業やプロジェクトが全く儲からないと投資が続けられません。きちんと利益を出すことが大事です。(引頭麻実 氏)
柏木:ネットゼロを実現するには、CCUSに加え、空気中から直接CO2を回収する「ダイレクト・エア・キャプチャー(DAC)」も必要です。こうした技術は金融市場でも関心を集めそうです。
引頭:私も大変興味があります。問題はコストです。CO2の吸着でカーボンニュートラルには近づくかもしれませんが、そのコストは誰が払うのか。消費者か、企業か、または税金を充てるのか。
家計、企業、政府が疲弊する仕組みは持続可能ではありません。月並みですが、必要なのはイノベーション。コストを補いつつ着実に利益が出るビジネスモデルの確立が求められます。グリーンボンドやESG投資によって資金を導入した企業やプロジェクトが全く儲からなかったり、赤字が継続したりすると投資が続けられなくなります。きちんと利益を出すことが大事です。