
田中 伸男(たなか・のぶお)氏
国際エネルギー機関(IEA)元事務局長
Innovation for Cool Earth Forum (ICEF) 運営委員会議長
Tanaka Global Inc. CEO
1972年東京大学経済学部卒業後、73年に通商産業省(現経済産業省)へ入省。82~85年外務省在米大使館で経済担当一等書記官、98~2000年同商務エネルギー担当公使を歴任。1989~95年と2004~07年経済開発協力機構(OECD)の科学技術産業局長を務める。07~11年国際エネルギー機関(IEA)事務局長に就任。15~20年笹川平和財団理事長次いで会長に。東京大学公共政策大学院客員教授、米Columbia大学 Center on Global Policy でDistinguished Fellowも務める。
柏木:ありがとうございます。今、ご説明いただいたIEAのこれらの報告書について、田中さんはどのような感想をお持ちですか。
田中伸男氏(以下敬称略):IEAの「Net Zero by 2050」は将来予測ではなく、2050年に脱炭素が実現するのであれば、それまでのプロセスで何が起きるか、バックキャスティングで示したものです。その報告書に「2021年段階で化石資源開発への新規投資は全く必要なくなる」という記述があったため、公表後には世界中の石油会社やOPEC(石油輸出国機構)がパニックになりました。「IEAショック」を起こしたセンセーショナルな報告書だったと思います。
IEAの報告書で私が注目したのは、「産業部門の熱利用の脱炭素化は難しい」と明らかにしたことです。鉄鋼、セメントなど重厚長大産業をどう脱炭素化するのか。日本政府が進めようとしているように、水素やアンモニアを混焼するしかないと思います。
私はコロナ禍がトランジションの試運転になったととらえています。各国がロックダウンなどを行った2020年、最も需要が減ったエネルギーは石油でした。石炭も原子力も影響を受けましたが、再生可能エネルギーだけは減らなかった。太陽光や風力は燃料費がかからず限界費用(マージナルコスト)ゼロです。ネットゼロに向けてエネルギーの消費量が減る時、どう対応をとるのが合理的かの答が見えました。勝者は再エネです。その再エネの調整力としても、水素やバッテリー、コージェネレーション(熱電併給)システムなど分散型電源の確立は重要です。
「World Energy Outlook 2021」 は中山さんが紹介してくださったように、NZE、APS、STEPSという3つのシナリオを示しました。ところがその後、第26回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP26)でサウジアラビアやロシアは2060年まで、インドは2070年までのカーボンニュートラル達成を宣言しました。COP26では温室効果ガスの一種であるメタン排出を削減する国際連携の枠組みを立ち上げ、2030年までに排出を3割減らすことでも合意しました。
IEAは昨年11月、こうした削減目標を改めて分析し直し、気温上昇を1.8度に抑えられるという見解を発表しています。過去にIEAが気温上昇2度未満に抑えられると言ったことはなく、非常に驚きました。1.8度まで抑制できるなら、1.5度が見えてきます。COP26を機に世界はいよいよ1.5度シナリオをターゲットに走り出した。その国際的コンセンサスができたと受け止めています。