
柏木 孝夫(かしわぎ たかお)
東京工業大学特命教授/名誉教授
コージェネ財団理事長
1946年東京都生まれ。70年東京工業大学工学部生産機械工学科卒。79年博士号取得。80~89年米商務省NBS招聘研究員、88年東京農工大学工学部教授などを経て2007年東京工業大学大学院教授に就任。12年東京工業大学特命教授に。専門はエネルギー・環境システム。03年日本エネルギー学会学会賞(学術部門)、08年文部科学大臣表彰科学技術賞(研究部門)など受賞多数。経済産業省総合資源エネルギー調査会委員、同調査会省エネルギー・新エネルギー分科会長等歴任。著書に『スマート革命』『エネルギー革命』『コージェネ革命』『超スマートエネルギー社会5.0』など。
柏木:脱炭素化に向けたトランジション期に化石燃料はなくなるのか。私はCCU(CO2の回収・利用)やCCS(CO2の回収・貯留)をつける形で化石燃料は残ると考えています。EUは「EUタクソノミー」で経済活動をサステナブルか否かという二進法的に分類する一方、CCUS(CO2の回収・利用・貯留)の認証機関などをつくり、自分たちに有利な形でトランジションを進めようとしているのではないかと感じます。
田中:EUはそういうことも頭に入れながら動いているでしょうね。再エネにできない部分は徐々にCO2排出を減らすしかありません。CCUSも重要な手段と考えているはずです。欧州のある大手石油会社の社長は「化石燃料にアンモニアや水素を混焼し、徐々にCO2排出を減らす日本のやり方は賢い」と話していました。ドイツではメルケル前首相が原子力も石炭火力も全廃する方針としました。
私はこの政策は大失敗だったと思います。今、ドイツがロシアから調達する天然ガスは消費量の6割以上に達しています。天然ガス輸送パイプライン「ノルドストリーム2」ができれば、さらにロシアへの依存度は高まります。ウクライナ問題が起きてドイツの立場が弱くなったのはこれが原因です。世界のエネルギー関係者に、エネルギー安全保障と地球環境問題のバランスをどう取るべきかを考えさせるきっかけになったと思います。
柏木:世界の潮流についての情報を共有できたところで、日本の問題を考えていきたいと思います。「World Energy Outlook 2021」で日本の将来像はどのように想定されていますか。
中山:2050年時点の電源構成比を見ると、日本は系統が脆弱なこと、土地が高いこと、適地が少ないことなどから風力や太陽光の割合が低くなっています。EUや米国は7割、中国が6割なのに対し日本は4割にとどまるという見立てです。再エネが少ない分を原子力が補う格好になっています。また調整力としてアンモニアや水素も使い、CCSをつけた火力発電も利用することを想定しています。
産業部門では水素系のガスや液体燃料の利用拡大などの工夫でCO2を大きく減らす予想をしています。運輸部門は電気自動車の導入が進み、電化が不可能な分野については水素や合成燃料、バイオマス燃料が普及する想定になっています。
柏木:電源構成で日本は原子力の割合が他国に比べて高くなっていますね。
中山:APS、STEPSともに2050年で20%程度まで維持されています。2030~2035年には設備容量が増える想定です。発電所の寿命を考えれば、時がたつにつれ設備容量は減るのが自然ですから、新設が含まれると考えられます。日本政府は2030年までの電源構成しか示していませんが、日本が2050年カーボンニュートラルを実現するには原子力の積み増しが必要であることをIEAの報告書が示した形です。
田中:日本では東日本大震災後の事故以後、原子力について思考停止状態に陥っています。何とかしなくてはなりません。EUタクソノミーでは放射性廃棄物処分場の計画づくりなどを条件に原子力を温暖化対策に役立つエネルギー源と位置づけました。これは日本にとっても1つのチャンスです。高速炉は放射性廃棄物の有害度低減期間を10万年から300年に短縮できます。レーザーで核種変換すれば100年にできるかもしれない。日本が実証できれば、世界にサステナブルな原子力のモデルを示すことができます。